一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




「素直な繭さんも可愛くてよろしい」
「か、揶揄わないでください……」
「至って真面目だよ、徐々に慣れて」
「慣……あまり、自信はないですが……」



ツンとした表情で顔を背けた繭だったが、心の底から嫌がっているわけではなく。

褒め倒される事に慣れていないので、どう反応したらよいのかわからない上に、整いすぎた顔と甘い声が原因で繭の鼓動は加速していく。


結婚したらきっと、毎日こうして困惑もするんだろうなとも考えたが、慣れてしまったらこのドキドキも半減するような気がして。

慣れる努力は当分先で良いとした繭は、徐々に椿との結婚を待ち遠しいものだと考え始めた。



「さあ、じゃあ食べようか」
「は、はい」



二人が椅子に座ると同時に、椿は林檎が盛られたお皿を繭の目の前に置いてフォークを手渡す。

どこまでも甘やかされてしまう繭は、一緒に眠った間柄の椿に対して、フォークを受け取った時にチョンと触れた指先でさえ、ドキリと胸を鳴らした。



「あっありがとうございます……いただきます」
「他にも食べたくなったら取ってあげるから、遠慮なく言って」
「はい……」



これはもう、一夜限りの関係とか子どもができたからという問題ではなく、確実に繭自身が椿に惹かれつつある事がわかって、ぎこちなく林檎を頬張る。

その様子を見ていた椿は昨夜のハム繭を思い出して必死に笑いを耐え凌ぐと、本日の予定を話し始めた。



「今日は俺も休暇なんだ」
「そ、うなんですね」
「だから、これ食べ終わったら一緒に行きたいところがある」
「へ?どこに……?」



自分と一緒に行きたいところなんて。

まるでデートのお誘いのようでドキリとした繭は、咀嚼を止めて椿に視線を向けると。



「着いてからのお楽しみ」
「??」



何か企んでいる椿はニヤリと微笑みながら味噌汁を飲み始めるので、行き先の見当もつかない繭は首を傾げる事しか出来なかった。



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