一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




目の前は真っ暗になり、無音の部屋に横たわる繭の体は、徐々に回復していくのが何となくわかった。

しかしお腹の中にいるもう一人の人間が、大事な大事な栄養分を母体から分けてもらおうと必死なので、回復していると思った矢先に体が再び気怠くなっていく。


そんな波のある体調変化も今はもうすんなり受け入れ、お腹の子を最優先に働く自分の細胞たちを応援する繭は、回復速度を上げるため寝ようとしたが。

ただ眠るだけでは何だか寂しいので、椿の事を想いながら、次回へ見送った初デートを想像しながら。

一番心が安らぐであろうものを、時間経過を忘れるくらいに埋め尽くしていた時。


遠くから微かに聞こえてくるインターホンの音が、眠りかけていた繭の意識を呼び戻していく。



ピンポンピンポンピンポーン

「…………」



随分と乱暴に鳴らされるインターホンに、心当たりが一つあった繭はゆっくりと面倒そうに瞼を開けて、ため息をついた。

そしてパジャマのまま玄関先へ向かい覗き穴を確認すると、サングラスをかけ高そうなワンピースを纏う、煌びやかなオーラを放った女性が立っている。


ああやっぱり、という思いと困った表情を浮かべた繭は、渋々玄関ドアをゆっくり開けた。



「お母さん……」
「あら、アンタまだパジャマ?もうすぐお昼よ?」



隣県に住む母が突然訪問してくる事は今に始まった事ではなかったが、よりによって疲れている日にこられると、余計に疲れるので。



「……用件は?」
「特にないわ、近くまで来たから様子見に来たの」
「実は今日体調が……」
「んもー外暑くて!繭〜冷たい飲み物ちょうだい〜」



玄関先で対応を済ませたかった繭の思いとは反対に、家に上がって涼もうとする母は。

断りもなく靴を脱いで、ズカズカとリビングへと向かっていく。



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