一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました
昨日、繭の母が帰ってからは椿が繭の看病をしつつ、恋人同士のように会話をしたり笑い合ったりして過ごしていた。
医者の椿がいてくれた事で心も体も十分休めた繭は、気付けば体調が回復していき悪阻もさほど気にならないほどに。
そしてあっという間に夜を迎え、つい言ってしまったのだ。
「……泊まって、いきますか?」
「えっ」
「部屋もベッドも狭いので、椿さんの自宅のような快適さは全然無いですけど……」
高級マンションの高層階に住んでいる椿が、築20年の質素な1LDKに寝泊まりするだろうか。
生活レベルの違いを申し訳なさそうにしながら話す繭だったが、椿にとってはそんな事はどうでもよくて。
繭が繭の意思で、自分との別れを惜しみ帰って欲しくないと主張してくれた事が、何より嬉しかった。
「……俺、狭い方が好きなんだよ」
「そう、なんですか?」
「いつでも繭さんを視界に入れていられるし触れられるから」
「っ……!?」
「だから今夜も、バックハグで寝たいな」
椿のおねだりも段々と定番化してきて、むしろそれがルールのようになってきた。
断る理由もない繭は、ドキドキと胸を鳴らしながらもコクリと頷いて、互いに視線を交わすと照れ臭そうに微笑み合う。
どんな条件だろうとどんな場所だろうと、今は二人さえいれば何の問題もなく幸せを感じられた。
そして数ヶ月後にはここにもう一人小さな天使が加わると思うと、これ以上の幸せが待っている事に一生分を使い果たしてしまわないか、繭は少しだけ怖くもなる。
しかしそんな事を言っていては先に進めないので、今日こそは椿との結婚意志を伝えたいと意気込む繭が、キッチンに向かった椿の下へと向かった。