一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




「マスター狙いなんですかね?」
「そんなんじゃねーよ、今日も恋人と別れて間もないのに、別の男に告白されてどうしようって相談されてんだから」
「え……?」



どうやら女性は椿が思っていた以上にモテるらしく、自分と同じような気持ちの男が他にもいる事がわかって、少しずつ危機感を覚え始める。


ただ、何の接点もないところから男女の関係を築く方法なんて、今までの出会いを思い出すとセックスしか思いつかない。

しかしそれでは一度抱いたら二度と会わないルールに該当するし、そもそも遊びで終わらせられるような簡単な気持ちではないので、椿はますます頭を悩ませた。



「まあ、繭さんは根本が真面目だからなぁ」
「……繭さん?」
「好意には応えないと失礼、とか思ってそう」
「…………。」



マスターと女性がそこまで親しかった事にも驚いたし、別の男の告白を椿の知らないところで承諾されるのは非常に困るが。

女性の名前が"繭"だと知れたのは、椿の中で大きな満足感も得られた。



しかしそれ以降、なかなか来店日が重なる事がなくてあっという間に一ヶ月が経ってしまった頃。


繭がバーに滞在している時間に少しでも長く居座りたい椿は、仕事が早く終わった日にこそ行くよう努力していた。



「おう椿、最近仕事終わるの早いんだな」
「スタッフ増やしたから残業減ったんですよ」



来店した椿を出迎えたマスターは、その適当な理由も本当の事と捉えて何の疑いもせず、跡取りも大変だなくらいにしか思っていない。

カウンター席に腰を下ろした椿は簡単に辺りを見回し、今日も繭の姿がない事を知って肩を落とした。


すると、特に何かを察したわけでは無いマスターが、いつものように話題の一つとして椿に話し始める。



「この前話してた繭さん、昨日久々に顔出してくれて」
「えっ!?」



まさか昨日が来店日だったとは、と思わず声を上げて驚いた椿はまたしても繭とすれ違い、会えない日を更新した。

しかしそれよりももっと深刻な事を、マスターは椿に良かれと思って教えてくれる。



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