大正浪漫 斜陽のくちづけ
 どんな触れ方をすればどう反応するか、確かめるようにじっくりと大きな手が這いまわる。
 まだ心の準備もできていない。必死で逃れようとするが、非力な凛子の抵抗など、ほとんど意味をなさない。

 夫となった人は、夢中で凛子のそんな様子に構わず、首筋に顔を埋め、肌に
唇を這わせると、夜着の下に手が入ってくる。

 何度か触れられたことはあるが、今夜は途中では終わらないだろう。
 直接肌に触れられ、いやがうえにも呼吸が乱れる。
 がちがちに身を縮こまらせた凛子を見て相楽が笑った。怖くないと言えば嘘になる。けれど拒む権利はない。

「力を抜いて」

 どうしていいのかわからず、固まったままでいると、右手で背中を、左手で髪を撫でられた。
 薄い絹の下で胸の先が透けているのに気づいて、慌てて手で隠す。

「さ、相楽さん」
「名前」

 名前で呼べばいいのかと考えている間に、相楽が胸に顔を埋めた。
「りょ、遼介さ……あっ」

 その刺激に思わず吐息を漏らしてしまうと、相楽が笑った。その余裕のある様子に、経験の差をひしひしと感じる。自分だけがうろたえていることがひどく恥ずかしい。

 首筋、頬、耳朶と唇が触れるたび、体温が上がってくる。時に浅く、時にきつく肌を吸われると、くすぐったさを超えて、熱が体に溜まっていく。

「ひ、あっ」

 唇が触れ合うと、胸が痛みを伴って甘く疼く。

「口開けて」

 幾度か触れるだけのくちづけを繰り返すうち、緊張が弛み自然とその要求に応えている自分がいた。

「そう。いい子だ。舌も唇も小さくてかわいい」

 凛子の声に相楽が煽られたように唇を夢中で吸ってくる。先ほどまでの甘い口づけは終わり、全てを奪うような激しさに息もできずに、凛子は喘いだ。
 苦しさに相楽の胸を押すが、びくともしない。侵入してきた分厚い舌が凛子の舌をとらえ、相楽が強く吸い、甘く噛みついた。

 くちづけ一つで我を忘れるほど、心も体も乱れていく。
< 31 / 79 >

この作品をシェア

pagetop