大正浪漫 斜陽のくちづけ
「凛子の気持ちは」
「好き……好きです」
「シロより?」

 思いも寄らない質問にたじろいだ。比べるなんてできない。

「えっ? お、同じくらい好きです」

 慌てて言うと、大声で笑われた。

「冗談だよ」
「本当に?」
「さぁどうだろう」

 やっぱり子供みたいなところがある。今はそんなところもかわいく思えた。

「凛子が好きだ。一人占めしたい。過去も未来も、心も体も」

 甘い囁きに応えるように、自分から初めて唇を重ねた。

「最高のご褒美だな」
「こんなささやかなことが?」

 意外な言葉だった。世間で思われているよりずっと素朴な人なのかもしれない。

「ああ。幸せは案外単純なことでしか得られないのだと思い出した」

 簡単なことでも、近すぎて見失ってしまうこともある。

「もう、秘密は作らないで」
「ん。約束する」

 横抱きに抱かれ、寝台に下される。
 いたわるような甘い口づけを交わすうちに、それだけでは物足りなくなっていく。

「ぎゅってして」
「ああ」

 凛子がねだると、きつく抱いて応えてくれる。

「これをするのは、私だけですか」
「もちろん」

 優しい笑みを浮かべると、唇を合わせながら、己のネクタイを引き抜くと、器用に凛子の着衣を乱していく。凛子も待ちきれず、夫のシャツの釦を外す。

「凛子が脱がせてくれるのか」
「だ、駄目ですか」

 はしたなかったかと手を止めると、

「いや、嬉しい。続けて」

 互いの素の温もりを求めて、肌を暴いていく。
 久々の情交に、体が切なく疼く。

「りょ、遼介さん、早く」
「いつになく急かすな」
「だ、だって」

 今まであった心のわだかまりが解けて、求める気持ちが爆ぜそうなのだ。
 寝台の上で抱き合い、口を吸い合っているだけで気をやりそうになっている。余裕のない凛子と違い、夫のほうは余裕のある様子で、いつも通りじっくりと凛子の熱を高めていく。
 両足の間にごつごつとした相楽の足が入り、凛子はもどかしさに体をくねらせ自分を押し付けた。

「……当たる?」
「あっ……あぁ」

 耳元で楽しげに訊ねる相楽の声にまで感じてまい、達してしまう。

「は……っ」
「今日はずいぶん早いな」
「早く欲しい」

 凛子の懇願を無視して、相楽は凛子の素肌のあちこちに口づけ、その感触を楽しんでいた。

「お姫様相手に雑なことはしたくなくてね」
「い、意地悪……」

 これほど求めているのに、敢えて時間をかけるのは、凛子を弄んでいるとしか思えない。

「ゆっくり味わいたい」
「ん……っ」

 胸に吸いついている首に手を回し、頭を抱きしめる。

「あ、もっと」
「今日は大胆だな」

 気持ちが通じた今、素直な気持ちで相楽を求めることができた。
 他の人には決して見せない姿をこの人だけに見せているのだと思うとより気持ちが昂っった。

「好き……好きです」
「凛子、おかしくなりそうだ」

 胸元を嬲っていた唇が脇腹や臍をかすめ、凛子の秘部へと辿りついた。
 何度されても、そこだけは見られるのが我慢ならない恥ずかしさがある。

「あ、あっやぁ」
「悦いと言え」

 敏感な花芽を舌で絡めとられて、挙句に指を二本挿入された。

「あ、あっ」
「凛子、腰が揺れてる」
「悦い、悦いっ」

 自分で発したはしたない言葉に煽られて、再び気をやってしまう。果てたあとも、相楽は太ももまで垂れた蜜を舐めとられてがくがくと膝を揺らした。

「びくびくしてる」

 濡れた花びらを愛でるように舐めたあと、起き上がって剛直を秘密に当てがった。
 ようやく欲しかった物が与えられる。
 そう思ったのに、割れ目の部分をなぞるばかりで、中に入ってきてはくれなかった。

「あ、どうして……」
「凛子が自分でねだるまでは、やらない」

 この意地の悪さはどこから来るのだろう。

「どうして私を苛めるのです」
「俺が欲しくて辛そうにしているのが見たい」
「あっ」

 さっき散々嬲られ、充血して腫れた花芽を鈴口がなぞる。互いの最も敏感な部分をこすり合わせていると、得も言われぬ快楽が脳天を突き抜けた。

「んっあ。下さい」
「ちゃんと言え」

 羞恥に耐えて、夫の耳元で淫らな願いをそっと口にする。

「いい子だ」

 凛子を屈服させて満足したように笑うと、中に入ってきた。

「あ、大きい」
「好きか」
「好きです」
「俺も好きだよ、凛子」

 互いの境界がわからなくなるほど、交じり合っているとこの世の果てにでもいるような心地になってくる。
 終わりがある快楽だからこそ、止まらない。
 二人の愛し合う音と甘い囁き、吐息が室内に響く。

 凛子の足を開き、思い切り穿つ。最奥を突かれ、凛子はなすすべもなく強制的に高みに押し上げられた。

「あぁ、また達ってしまいます」
「何度でも達くといい」

 端正な顔立ちが興奮に歪んでいく。汗と体液が交じり合い、二人の境界線を濡らした。

「出すよ」
「来て」

 体内に熱い飛沫が飛び散ると同時に、凛子は意識を飛ばした。
< 61 / 79 >

この作品をシェア

pagetop