大正浪漫 斜陽のくちづけ

エピローグ

 五月の初め、二人で神戸元町を訪れた。
 少し遅めの新婚旅行のようなものだ。
 夫は仕事でよく来るらしいが、東京育ちの凛子には見るもの全てが新鮮だった。

「すごい! 素敵なお店ばっかり」

 舶来品を扱う輸入雑貨のお店には、珍しい品物がずらりと並んでいる。
 西洋の骨董品など、見ているだけでわくわくした気持ちになった。
 貿易の発展で、和洋中の文化が混ざり合う、異国情緒の溢れる街だった。
 大時計や、派手な看板などで賑やかな街並みを手を繋いで歩く。

「看板が英語で書かれてるわ」
「貿易で異国の人も来るからね」

 出会った日に夫が英語を話していたことを思い出す。

「英語はどこで勉強したんですか」

 本人は学がないなどというが、色々な面で知識は豊富そうだった。

「必要があれば、学校へ行かなくても学べると当時働いてた会社の社長に言われたんだ。実際そうだった」
「私は学校で習ったけれどあんまり……」
「今度一緒に外国へ行くか」
「少し怖いわ」
「はは、何事も経験だ」
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