なぜか推しが追ってくる。




あの世界から逃げたとき、神山ミズキとは全く別の人生を歩もうと決意した。明るくて愛される、だけどごく普通の女の子になろうとした。

それが、自分なりのけじめだった。


……そして天羽恭は、神山ミズキの知り合いであって武藤瑞紀の知り合いではない。

だから、恭くんが転校してきてからずっと、初対面の純粋なるファンとして振る舞い続けたのだ。




「──本当は覚えてる。恭くんのマネージャーの早坂さんも、知らないフリしちゃったけど同じ養成所にいた人だって気付いてたよ」




一度話し始めてしまうと、色々な記憶が蘇ってくる。




「あの頃の恭くんは、芝居なんて心の底から嫌いだって顔してたよね」


「……うん。瑞紀ちゃんが最初に俺に声を掛けたのは、その態度を注意するためだったね」




あの時も、自分の好きなものを馬鹿にされたような気持ちになったんだろうな。

演技をするのはこんなに楽しいのに、何でそんなつまらなそうな顔をするんだ……って思ったんだろう。

先ほど原さんにとったあの態度といい、好きなものを馬鹿にされるとすぐ頭に血が上る癖は、あの頃から直っていない。




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