なぜか推しが追ってくる。




「あっれー? 誰かと思ったら武藤ちゃんじゃん」




ガチャっとドアが開き顔を見せたのは、稽古を見学しに行った日にも声を掛けてきた、恭くんのチャラい俳優仲間。

彼はわたしの姿を認めるなり、スッと素早く近づいてきた。しかもその自然な流れで手を握られる。




「あ、どうも……」


「ずっと会いたかったんだよ武藤ちゃん! この前の演技には圧倒されちゃったよ。僕もうすっかり君のファンになっちゃったってのに、恭のやつ全然会わせてくれないしさ」


「はあ……」


「それとさ。事務所どこも入ってないなら、うちの事務所の社長に紹介するけどどう?」


「あ、そういうのは本気で結構です」


「何だ残念。じゃあやっぱり連絡先だけ……痛っって!!」




勢いよくしゃべっていたチャラ俳優さんが、握っていたわたしの手を離して後頭部を押さえる。

何事かと思えば、彼の背後に穏やかな笑みを浮かべた恭くんが立っていた。


手にはくるくる丸められた台本らしきもの。どうやらこれで、彼の頭を後ろから思いっきり叩いたらしい。


穏やかな笑顔とやってることが一致してないの好き。



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