なぜか推しが追ってくる。




自分でも何を言ってるかわからないけど、それでとりあえず納得してもらう。いや納得してないだろうけど。

結局恭くんは塩味を選んだので、わたしは宣言通りキャラメル味を買った。



そしてシアターに入って座席に着くと、独特の薄暗さにようやく一息つくことができた。


だけど、一息ついたからこそ改めて思ってしまう。

……やっぱり、傍から見ればどう見てもデートだよなあ。


恭くんは何のつもりでわたしと映画を見ようなんて思ったんだろう。

映画を見た人の反応を確認……なんて、別に一人でもできるはず。


聞いてみたい気もしたけれど、悩んでいる間に映画は始まってしまった。




「……」




大きなスクリーンに映る推しの姿。



わたしはいつの間にか合掌していた。

油断すると変な声が漏れてしまいそうなので、必死に歯を食いしばる。ポップコーンなんて食ってる場合じゃねえ。




『黙れよ! おふくろにオレの気持ちなんてわかんねえだろっ!』




スクリーンの中で叫ぶ恭くん。怒っているのに、目の中に宿る光は怒りというより悲しみ。

母と子で気持ちがすれ違い、なんとも涙を誘うシーンだ。


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