なぜか推しが追ってくる。



「瑞紀ちゃんが逃げるなら、俺はそのたびに何度だって追いかける」


「追いかける、か……あはは」




その言葉には思わず笑いがこぼれた。

推しに追われるってどんな状況だよ。


だけどそっか。考えてみたら今だって、仕事帰りなのにわたしを見つけて、こうやって追ってきてくれたんだ。




「とりあえず当面の目標は決まったね」


「目標?」


「そう。瑞紀ちゃんはもっと自分のことを俺に教えること。で、ありのままの俺についてももっと知ろうとすること」




恭くんはそう言ってから、思いついたように付け足す。




「あ、それと前に『苗字でも名前でも呼びやすいように呼んで』って言ったことあったけど、やっぱり苗字呼びは禁止で」


「え」


「瑞紀ちゃんが俺を苗字で呼ぶのって、わざと距離をとろうとしたときでしょ? そう思うと結構寂しいなって」




おっしゃる通りで。

恭くんのことは、初めて存在を知った日からずっと「恭くん」呼びだ。

“ただのクラスメイト”らしく苗字呼びするときは、正直違和感が半端じゃない。そして結局すぐに恭くん呼びになってしまいがちだ。





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