冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?

 ミザリーは久しぶりにリーンハルトの部屋を訪れた。彼は家に帰ると勉強ばかりしている。ノックをするとすぐに「どうぞ」と返事があった。

 ミザリーが入っていくとリーンハルトが目を瞬いた。

「姉上が、俺のところに来るなんて珍しいね」

 開いていた本をぱたりと閉じ、彼は文机から立ち上がる。十六歳になったリーンハルトは背も高くなり、声も低くなった。



 精巧に彫られた彫刻のような完璧な目鼻だち、涼やかなアイスブルーの瞳には理知的な光を湛えている。ほんの少し冷たい美貌。
 だが、今この時、そこには温かい微笑が浮かんでいる。
 
 彼の部屋はすっきりと片付いていて、落ちついた色合いの調度でまとめられていた。無駄なものがない。それはそのまま彼の潔癖な人柄を表しているようだ。

「リーンハルト、一緒にお茶を飲まない?」
「いいけれど……」

 ハキハキとしている弟が珍しく言いよどむ。

「あら、どうしたの? 私とお茶を飲むのがいやなの?」
「レティシアもいるのか?」

 彼はレティシアが苦手だ。ミザリーがにっこりとほほむ。

「いいえ、レティシアは今日出かけて、外でお茶を飲んできたみたいだから」

 何気ない調子で切り出す。

「そう、じゃあ、ここで飲む? サロンに行くのも面倒だし」

 レティシアがいないと聞いて、彼は了承した。

「あっさり、しているのね。誰とって聞かないの?」
 
 弟に綺麗な微笑を向け、首を傾げる。

「え?」
「レティシアが誰と外でお茶を飲んだか気にならないの?」

 リーンハルトがその美しい眉間にしわを寄せる。

「誰も何も、興味ないね。それにあいつは友達もいないんだから、相手は婚約者のトレバー様しかいないだろ」

 弟は執事に言いつけ、部屋に茶を用意させた。彼は勉強ばかりしていて、あまりサロンで茶を飲むことはない。伯爵家の嫡男ともなると大変だ。

「レティシアがお茶を飲んだのはトレバー様ではないわ。私の婚約者のアーネスト様と一緒にカフェに行ったのよ」
「え? あいつ何を考えているんだ」

 途端にリーンハルトの表情が険しくなる。ミザリーは優美に微笑み、何気ない口調で話を続ける。

「買い物の帰りに、偶然出会ったんですって」
「なんだ。驚いた。まあ、アーネスト様があいつを相手にするとは思えない。それにフレンドリーな方だし、そういうこともあるだろう」

 弟は落ち着いて冷静な様子だ。それが、面白くない。

「私の婚約者と勝手にお茶を飲んだのよ。よりによって外のカフェで」

 ミザリーのいつになく、激しい口調に驚いたような顔をした。だが、すぐに彼は冷静さを取り戻す。

「偶然だろ?」
「あの子が、偶然と言っているだけよ。本当は約束して落ち合ったのかも」
 
 リーンハルトが小さくため息をつく。
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