冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?

幕が下りる

 レティシアは、オデットの機嫌を取ることに腐心した。しかし、一度失った信頼というのは回復するのが難しい。

 どこで間違えたのだろう。どんなに微笑んでも彼女は前ほど親しげには付き合ってくれない。

(どうしたらいいの? せっかく夜会も我慢しているのに)


 しかし、その後、状況は悪化していく。
 
 レティシアが、読み書きがおぼつかないとブラウン子爵夫妻にバレてしまったのだ。これは貴族の令嬢として致命的だ。

 いったいどこからバレたのだろう。トレバーは知っているが、彼がレティシアに不利になることを言うはずない。

 あの夢で、結婚したのは十八歳だった。レティシアは今十九歳、もうすぐ二十歳になる。

 徐々に強烈な前回の記憶は薄れていくが、このままでは結婚できなくなるかもしれない。下手をすれば破談だ。
 
(トレバーを放したくはない。私は幸せになるのだと決めたのだから)

 前回とは違い、トレバーはレティシアを愛してくれている。だから、彼と結婚することは彼女のなかで決定事項だった。



 朝食の後、二階にある義父の執務室に呼ばれる。婚約が破棄されてしまうのだろうか。夢ではこんな展開はなかった。どうしよう。

「レティシア、お前がしっかり勉強をしなければ、この婚約は白紙に戻さなければならなくなるぞ」

 執務室で渋い顔をしたオスカーに伝えられた。

「そんな、お義父様、私頑張ります」

 政略とはいえ、トレバーとは上手く行っているのに悲しくなる。幸せになりたい。

「期限は三ケ月だ」

 いつもは甘い義父に期限をきられた。

「たったの三ケ月ですか………」

 正直自信がない。レティシアは勉強が苦手で大嫌いだったが、否はない。

 今はレティシアを愛してくれるトレバーと結婚したかった。どうしても幸せになりたい。

 それにこの間、義母にアーネストと茶を飲んだと大目玉をくらったばかりだ。ニーナから聞いたらしい。

 お茶を飲むくらいいいではないか。将来義兄妹になるのだから。


 義父に厳しいことを言われ、肩を落として執務室を出ると、そこにはこの家の天敵リーンハルトが佇んでいた。
 
 彼の冷たいアイスブルーの眼差しにレティシアはたじろぐ。そういえばリーンハルトが家にいるのは久しぶりだ。こんな時に限って……。

「レティシア、いったいどういうつもりだ?」
「はい?」

 この義弟はレティシアを姉とは呼ばない。彼にとって姉はミザリーただ一人だ。

「お前は、殿方に媚びるあばずれだ噂されている」
「え? なにそれ? 私、そんなことしていない」

 言いがかりだとばかりに、レティシアは唇を尖らせる。

「あちこちで、愛嬌を振りまき過ぎた。中には勘違いした奴もいる。いったいどいうつもりなんだ? お前の素行の悪さが悪い噂をうんでいるんだぞ」

 
 そうは言われてもレティシアは、何も後ろ暗い所などしていない。

 
「媚びるとか、素行が悪いとか失礼ね! 私はただ愛想よくしただけ」
 
 どれほど忘れようとしても、レティシアの心の底にはあの悪夢が居座り、時々顔を出す。だから彼女は人から嫌われるのが怖いのだ。できるだけ自分の味方ほしい。そんな思いが周囲の誤解を生んだ。
 
「何をいっているんだ。お前、自分のやっていることがわかっているのか? だいたいお前が好かれるのは男ばかりで、同性には嫌われているじゃないか」
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