冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 緊張していたので、いい気分転換にはなったが、忙しいことには変わりなく、結婚式の前日にたずねてくるなど、本来ならば褒められるものではない。しかし、彼女にはそう言う強引なところがある。女友達とはこうものなのだろうかとレティシアは思った。

「実はね。これをあなたにと思って」

 彼女が持ってきたのは王都で評判の菓子店の焼き菓子だった。

「すごい。良く手に入ったわね」
 
 本当に手に入りにくいものでレティシアは感心した。
 
「ええ、だからぜひあなたと一緒にと思って」
「ありがとう、あのでも……」

 彼女は交換条件の人だ。なにか叶えて欲しい願いでもあるのだろうか? 慌てだしたレティシアを見て笑いだす。

「やだ、心配しないで、リーンハルト様を紹介してなんて、もう言わないから」

 彼女はリーンハルトに相手にされなかったらしい。丁寧にだがきっぱりと断られたといっていた。彼はいま、魔法の研究に夢中だ。嫡男であるから、いずれは結婚しなくてはならならないのに少し心配になる。

 それから、レティシアはありがたく焼き菓子を頂いた。しかし、緊張していたせいか、あまり味が分からない。正直にいってしまえば、評判ほど美味しくはなく、コーヒーが混ぜられているせいか少し苦みがあった。
「あまり、長居しても申し訳ないから」と言って、三十分ほどで、マリーナは帰っていく。しかし、結婚式前日の夜来るというマリーナの非常識な態度に、義母オデットは眉をひそめていた。


 翌日は天気も良く、レティシアはみなに祝福され無事結婚式を終えた。

 緊張しながら、コーエン伯爵家のタウンハウスについた。今日からレティシアはコーエン伯爵夫人になり、この屋敷が家になるのだ。屋敷の規模はシュミット家とそれほど変わらないが、蔦の絡まるレンガ造りの建物は瀟洒な雰囲気で、実家とは違う明るさとしゃれた雰囲気がある。

 そして、今夜、アーネストと初夜を迎える。
 レティシアは学園が忙しくて、彼と過ごす時間はとても短かったが、人となりは前回でわかっている。だからそれほど不安はない。

 与えられたコーエン家の自室で少し休んでいると来訪者があると知らされた。
 もう人を訪ねるには時間だし、今日この時間に訪ねてくるなど非常識だ。断ろうとも思ったがシュミット家の使いで、急ぎだと言う。
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