タイムスリップ・キス
Time7.変わらないもの)
今日こそオムライス、そう決めて近所のスーパーに向かった。

買ってもらったスマホを持って、借りた服を着て、ついでにお小遣いまでくれた。

さすがに無一文じゃ可哀想だからって、1,000円。

中学生のお小遣いみたい。

ありがたいけど、それはすっごくありがたい!

このままじゃヒモ生活になると思って、家の掃除してみたり、洗濯をしてみたり、ご飯を作ってみたり…ヒモ生活と言っても過言ではないけど。

ひゅーっと冷たい風が顔に刺さる。

「寒っ」

5年経ったら地球温暖化が進んでもっと冬もあったかいかと思ったけど、全然寒いじゃん。

息をするたび白くなる、そんな息を必死に手に当てながら温めた。

出掛ける時はなるべくいろんな道を通った。

そしたら何か見付かるかもしれないから、少しでも何か為になるようにと今日もスーパーへ行くまでの道のりを遠回りして歩いた。

あと三次元カメラでいろんな風景を撮るのも楽しくて。

遠回りをするのも全然苦にならなかった。

「あ、あのカフェ可愛い~!」

通りかかったレトロなおしゃれカフェ、ここにこんなカフェはなかった…と思う。

わざとレトロ風に作ってあるだけできっと新しい建物なんだとうなぁ。

パシャっと1枚写真を撮った。

「………。」

外に出てるメニュー看板には変わった名前の紅茶がいっぱい載ってた。

いいなぁ…

いや、でも…
そんなリラックスして紅茶飲むようなお金は…

パーカーのポケットにまんま入れた1,000円を取り出した。

じーっと見つめて、英世とにらめっこしてみる。

「…いや、ダメでしょ!」

でも1杯650円もする高級紅茶になんて使えるわけない…!

ヒモの分際で何考えてるのっ!

スーパーに行かなくちゃ、そして早く帰って夕飯の支度しなくちゃ。

「…諦めよう」

ポケットに1,000円を戻して歩き出した。

誘惑に負けそうになる心を抑えながらカフェの前を通り過ぎる。

でも店内が気になって、ついつい窓から覗くようにじーっと見てしまった。


そこで見付けたんだ。


私のずっと会いたかった人。


私の好きな人。



「伊織先輩…!」
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