タイムスリップ・キス
山田に言われて今一度思い返してみた。

「ちなみに俺の記憶は5年前だから、ほぼ覚えてないと思え!」

「…私の筋肉番長の返答は覚えてたくせに!」

「筋肉番長のことは忘れないんだよ」
 
「どんだけ好きなの!?」

はぁっと息を吐いて、きゅっと気を引き締めた。

私からしたらちょっと前の出来事だけど、あの日のことがインパクトありすぎて実はあんまり覚えてないんだよね。

未来(こっち)に来て何をしたらいいのかザックリしてるのはこれが原因だったりする。

飛んでる記憶を呼び戻す作業が始まった。

「晴はどこにいた?」

「私は…」

まずここの自販機で紅茶を買った。

先に山田がカフェオレを買ってて、そのあとに自販機にお金を入れて…

同じ校舎裏だけど、私が見ていた景色とは違い過ぎて全然ピンと来ない。

いつ見てもここのトイレは怖いなって思ってたのに、今は遠くても使いたいトイレになってるし。

「それで?次は」

「次は山田と話ながらー…」

伊織先輩たち別れないかなーって愚痴を言って…

「あ、ここの花壇のブロックに乗った!」

ぴょんっと同じように乗り上げた。

花はキレイに変わったけど、ブロック自体はそのまま塗り替えられてるだけで5年前と同じ花壇だった。

「うん、そしたら?」

「そしたら…」

くるっと振り返って山田の方を見た。


視線が合った。

同じ目線だった。


タイムスリップ前とは明らかに違う、目線の位置に微かに記憶が蘇る。

あの頃は身長もほとんど変わらなかった。

だからブロックに乗った時、私は少し視線を下げた。

そのことを思い出した。


「…!」


ドッ、と鼓動の音が大きくなった。


心臓が揺れる。


ぶわっと頭の中に振動が流れた。


じっと見ている山田の瞳、その瞳から呼び起こされるあの日の記憶。

その瞬間、鮮明に浮かび上がった。


ふにゅっと重なった初めての感触が。


ボンッと顔が熱くなった。

何があったか思い出した…!


私、山田と…っ!
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