タイムスリップ・キス
それが私の知らなかった5年間。




みんなが必死に隠して来た事実だ。

誰も教えてくれなかった、誰も言いたくなかったんだ。



もうこの世界に小西先輩がいないなんて。



「学校からの帰り道に歩道橋の階段で足を滑らせて、そのまま…」

「…嘘」

頭が追い付かない。

何かが崩れ落ちていく。

想像できなかった未来。

ビューっと風の音が強くなった。

髪が揺れて、うまく前が見れなかった。

「…ずっと黙ったままでごめんな」

ふるふると首を振った。

山田が謝ることじゃない、山田だってこんなこと言いたくなかったよね。
ましてや過去から来た私に、まだ小西先輩を知る私に。

「…それで伊織先輩は」

「あぁ、それから伊織さんは学校に来れなくなった」

“誰にも行けない理由ってあるよね”

“僕もお休み中なんだ”

「…そこからなんとか少しずつ学校に行けるようにはなったけど、出席日数が足りなくて1年留年することになって…俺らと一緒に卒業したんだ」

“僕たち同級生なんだから”

ひとつひとつパズルが組み合わさっていく。

知らない5年間が埋められていく。

真実は私が思うより無情だ。

「そこから俺も会ったり会わなかったりだったけど…」

山田の声がどんどん弱弱しくなっていく、目を伏せて俯いた。

「たぶん今も伊織さんは…」



“僕の大事な人なんだ”


ずっとずっと伊織先輩は…



サーっと血の気が引いていく感覚。

あまりの出来事に涙も出ない。


嘘だよ、信じられないよ。


小西先輩は…、未来にはいないんだ。

伊織先輩は今も小西先輩を想って苦しんでる。

もう会えない寂しさと大切な人を失った痛みに。

「……。」

「…ねぇ山田」

「ん」

私には何が出来るの?

伊織先輩のために、何が出来るんだろうって考えた。

でもその時ね、“私”ならどうするんだろうって思ったよ。

「どうして“私”は伊織先輩に会いに行かないの?」

「え…」

思わず山田に詰め寄ってしまった。

避けるように距離を置いてる“私”の存在が頭を過ったから。

「なんであんな冷たいの!?どうして会いに行ってあげないの!?伊織先輩会いたがってたのに!!少しでも何か…っ!」

力の入る私の手を山田が握った。

その瞳が悲しく語りかける。

「…晴にも、晴の事情があるんだよ」
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