私と貴方の秘密の一年間

不安彼女と台無し教師

「あのですね先生、私は楽しんでほしくて誘ったんです」
「あぁ、今めっちゃ楽しんでるよ、テンション上がってる」
「川に飛び込んだ人が楽しんでいるなんて思えないのですが」

 待ち合わせの場所ミスったなぁ。まさか、河川敷の橋の上からダイブするなんて思わなかった。

「というか、その辺の餓鬼なんてほっとけばいいのに。先生は優しいですね」
「まさか、お前からそんな言葉が出るなんて思わなかったよ」
「先生が犠牲になるくらいなら、見ず知らずの人は正直どうでもいいです」
「そう言うなって」

 大きな手で頭を撫でてくれる先生。でも、いつもの温もりはなく、冷たい。水で体が冷えてしまったんだ。
 幸い、荷物は橋の上に置いてダイブしていたみたいだから先生本体以外は問題ない。あ、あと服も濡れているか。これで風邪を引いたらどうしてくれるんだよあのクソガキ。川に帽子を落としただけであそこまで泣きじゃくるなんてどうかしてるよ。先生の温もりを返せ。

「そんな不機嫌そうな顔をするなって、濡れた俺は嫌か? ………普通なら嫌か」
「水も滴るいい男で見ている分には私は目の保養になりますしなんだったら心の底から愛を叫んで今ここで色んな人に自慢して回りたいくらいです」
「やめようか」
「先生の素晴らしさや美しさなどは、私だけが知っていればいいので言いませんよ」
「それならいいが……」

 苦笑い浮かべながらもちゃっかり煙草に火をつける先生。マスクは片方の耳にかけて落とさないようにしてる。

「あの、先生?」
「ん?」
「寒くはないんですか?」
「…………………ックション!!! お前が余計な事を言うからくしゃみが出ただろうがどうしてくれるんだ。…………その手に構えたスマホは今すぐ下ろせ」
「先生のくしゃみをしているお姿を写そうと思って瞬時に構えましたが、ロックを解除出来なくて殺意が芽生えました」
「スマホに罪はない、やめなさい」

 この役立たず。ロック消そうかなぁ、でも流石に先生隠し撮り写真とかふとした瞬間に見られたら死ぬから駄目だ。

「寒いですよね。今日はお花見を中止して家に帰りましょうか」
「いや、俺は問題ねぇ」
「でも……」
「それより、ほれ。結構満開で綺麗だぞ」

 鼻水をティッシュで拭きながら先生の指さす先には、ピンク一色の桜並木。色んな人が手に飲み物やスマホなどを持って、楽しげに腕を組んだりして見て回ってる。
< 19 / 68 >

この作品をシェア

pagetop