私と貴方の秘密の一年間
「…………え、何してんの、お前」
「先生の腕を掴んで自殺を止めています」

 ……………………はぁぁぁぁぁぁぁああああああ、ギリギリ間に合った。先生がまさか自殺をしようとしているなんて。

「何で、なんで…………。教師は生徒の自殺を止めるものでしょうがぁぁぁぁああ!!!!」
「…………あぁ、まぁ。そうだな」
「なんで教師がそっち側になっているんですか、駄目でしょう!!! そこの立ち位置は私の立ち位置です!! さぁ、変わってください!! それで私の自殺を先生なりに止めてください!!」
「いや、自殺したがってないじゃん。止めなくてもやらないでしょ。それより、今授業中のはずなんだけど…………、なんで君はここに居るの?」

 私が掴んでいる手を先生は振りほどこうとしないで、黒ずんでいる瞳を向けてくる。目に生気を感じない、いつも授業はこんな感じだったなぁ。


 九頭霧幸大(くずきりこうだい)先生。担当は音楽で、三年A組の担任。私のクラスの担任で、生徒からはクズ先生と呼ばれている。
 普段の言動がクズに近いのもあり、そのように呼ばれているんだけど、私はそんな先生が大好きだ。

 本当に、大好きなんだ。だから、死んで欲しくない。

「先生が階段を上がるのを見たので、授業中に窓を眺めて妄想に浸っていたんですよ。そしたら、先生が屋上に立っている姿を見つけたので。それと同時に腹痛が痛くなりました」
「国語の授業をしっかりと受けてから出直してほしいな」
「高校になって早二年、真面目に授業を受けてこなかった私が、今更ながら受けれると思いますか?」
「無理だな」
「そうでしょう?」

 いつもテストでは、ギリギリ赤点を免れている私。これからは真面目に受けないといけないとか、確実に無理だよ。

 今はそんなの関係ないから別にいいんだけどさ。

 今の私は、自殺しようとしている先生を止める。これが私の使命だ。もし、先生がいなくなってしまったら、私は"今度こそ"――……

「…………先生、今から私が提示する選択肢から一つだけ、選んで頂けませんか?」
「は?」
「よっと」


 ――――――――ガシャン
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