【受賞】幼妻は生真面目夫から愛されたい!
 クラークがオリビアの首元に顔を埋めたまま喋るので、その吐息が肌に触れる。
「団長のこと。申し訳なかった……。君から家族を奪ってしまった……」
 団長であるクラークが団長と呼ぶのは、オリビアの父であるアトロのことだ。
 きっと彼は、アトロが亡くなったことを謝罪しているのだ。
「どうして、旦那様が謝るのですか?」
「俺たちがもっと早く動いていれば、助かった命であると思っている」
 オリビアはゆっくりと首を横に振る。
「謝らないでください。父が助けた赤ん坊が、今では歩いているんです。男の子だったんです。父の月命日に、顔を見せにきてくれるんです。父が助けた命が、そうやって成長していくこと、嬉しく思います。だから、謝らないでください。父の死を、惨めなものにしないでください」
 オリビアはそう思っていた。赤ん坊の母親も、アトロに感謝をしつつもオリビアには謝罪したのだ。そのとき、彼女は同じことを口にした。
 それからというもの、あの母親は月命日になると、息子の顔を見せに来てくれる。それが、オリビアのささやかな楽しみでもあった。
 父親が救った命が成長していることに喜びを感じていた。
 そして今、オリビアはクラークの顔を見ることができなくて良かったと思っている。彼の顔を見たら、間違いなく泣いていただろう。
 それがどのような感情に当たるのかはわからない。父親を懐かしんでいるのか、悲しんでいるのか。それとも、自分が惨めなのか。
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