断る――――前にもそう言ったはずだ
 けれどその時、寝室の扉が開く音が聞こえた。
 室内に響く足音。モニカは静かに息を呑み、それから深々と頭を下げる。足音がモニカの目の前で、ゆっくりと止まった。


 長い沈黙。
 どちらも全く口を利かない。


 今回、先に焦れたのはエルネストの方だった。
 モニカの肩をポンと叩き「そこに座れ」と呟く。

 いつも凛と張りのあるエルネストの声音が、今夜は何処か上ずっている。
 彼も緊張しているのかも知れない――――そう思うと、モニカの緊張が少しだけ和らぐ。

 促されるまま、モニカは広いベッドの隅に腰掛けた。


「――――モニカ」


 エルネストがモニカの顔を覗き込み、名前を呼ぶ。
 額に彼の唇が触れ、モニカはギュッと目を瞑った。


(どうすれば良いの?)


 緊張のあまり、身体が強張っている。
 息をするのも忘れ、モニカはじっとしていることしかできない。


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