断る――――前にもそう言ったはずだ
 三年前、エルネストとの結婚を機にモニカの侍女となったコゼットは、現在十八歳の伯爵令嬢。小柄で愛らしく、ついつい守ってやりたくなるような女性だ。
 伯爵令嬢だけあって礼儀正しく、また見目麗しい彼女は、王太子妃の『窓口』として重宝されている。まだ若いが、三年の勤務歴を誇るため、侍女の中でも中堅どころの立ち位置だ。


 一方、婚約の段階で専属侍女になってくれたジュリーは侍女長として、今もモニカに仕えてくれている。
 モニカの私生活におけるスケジュールや衣装、装飾品の管理、予算の割り振り等、彼女の仕事は非常に多岐にわたる上、責任も重い。

 本当ならば以前のようにジュリーにお茶を淹れてもらいたいところだが、いつまでも彼女に甘えるわけにはいかない。

 このため、この三年間、モニカの朝のお茶を淹れるのは、コゼットの仕事だった。 


(疲れた……)


 ため息を一つ、モニカはソファにもたれかかる。

 エルネストのおかげで、今日の公務は一つ減ったものの、かえって気がかりが増えてしまった。

 不安に焦燥、劣等感が、モニカの心を沈ませる。


(わたくしはエルネスト様にとって、必要ない存在なのではないかしら)


 たとえ嫌われようとも、妃として役に立ちたいと思っていた。意に沿わぬ結婚を飲んでくれた彼のために、少しでも返せる何かがあれば、と。

 けれど、実際は――――


(痛っ……)


 先程から、胃と下腹の辺りがツキツキ痛む。
 悪いことは重なるものだ。
 モニカは大きなため息を吐いた。


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