断る――――前にもそう言ったはずだ
「エルネスト様、せめて寝室を分けませんか? わたくしはしばらくの間、妃としての務めを果たすことができませんもの」


 エルネストが側妃を勧められているのは、モニカだって知っている。側妃でないにせよ、せめて他にお手付きを作るべきだという声すら上がっていることも。

 けれど、多忙な彼が寝室に他の女性を連れ込むタイミングなんて、夜ぐらいしか無い。モニカと一緒に眠っていては、永遠に側妃なんて作れないのだ。


「断る――――前にもそう言ったはずだ。
大体、子を成すだけが妃の務めではないだろう。」

「それは……そうかもしれませんが、皆様が求めているのはわたくしが子を産むことですし。エルネスト様もその……夜間お一人になる時間が必要なのではないか、と」

「一人になる時間? そんなもの、僕は求めていない。
モニカ、他人の期待など気にするな。それに、責任は僕にも有ると言っただろう?」


 エルネストは冷たくそう言い放つと、無表情のままモニカを手招きした。


 目頭が熱い。
 胸がもやもやする。

 けれど、モニカが私室に戻るという選択肢もない。
 彼女は渋々、エルネストのもとに向かった。


 彼はモニカが動くのを見届けてから、先にベッドに潜り込む。
 三年間変わらない定位置。

 結婚してからエルネストとモニカが別々の寝室で眠ったことは一度もない。


「おやすみ、モニカ」


 いつもと全く同じセリフ。
 ため息とともに頭を撫でられ、瞳に涙が滲む。


「おやすみなさい、エルネスト様」


 互いに背中を向けて眠る。
 モニカは中々寝付くことができなかった。



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