断る――――前にもそう言ったはずだ
「それは良かった。なにごとも健康が一番ですからな。
ただ……国民はそろそろ、お二人が健やかでいらっしゃることだけでなく、新しい希望を求めているのではないでしょうか? エルネスト殿下にはまだ子供がいらっしゃいませんし……」


 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべつつ、カステルノー伯爵は首を捻る。


「ご結婚から既に三年でしょう? 皆が心配をしている頃だと思うのですよ。このまま妃殿下は子を産めぬのではないか、とね。
しかしねぇ、どんなに望んだところで、土壌が悪ければ作物というのは育たないものですから。お二人もそろそろ、別の方法を考えても良い頃合いでは?」


 別の方法――――つまりは土壌たる『モニカ』が悪いので、代わりとなる『側妃』を、と言いたいのだろう。ここまでは想定内だ。


「それにねぇ……このままでは宰相であるお父上の評判も落ちてしまいます。政治的な判断ができていない、とね。
そうなると妃殿下も不本意でしょう? ただでさえ結婚当初は『娘を権力の道具にしている』と口さがない連中に言われておりましたし、今度は娘可愛さに王家を断絶させようとしていると言われてしまうなんて……」


 そういう言い方をされては、モニカには言い返しようがない。ムキになってると思われるのは損だし、相手側がエスカレートしてこちらの傷が深くなるだけだ。


「そうですわね……夫とよく話し合ってみますわ」


 結局は相手の望み通りの言葉を返すことになってしまう。
 カステルノー伯爵は満面の笑みを浮かべつつ「是非に」と言った。
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