断る――――前にもそう言ったはずだ
「今夜、わたくしは自分の部屋で休みます」


 深呼吸を一つ、モニカはそう口にする。


 エルネストの願いを叶えたい。
 彼のために、国益につながることをしたい。
 エルネストが心から愛する側妃が立ち、世継ぎが生まれるならば、これ以上のことはない。そう自分に言い聞かせる。


「けれど妃殿下……」

「エルネスト様が貴女を求めたのでしょう? だったら、彼の気持ちを優先して。今夜は貴女が彼の寝所に向かいなさい。タイミングを見て、わたくしと入れ替わりましょう。もちろん、貴女が嫌なら強要はできないけれど……」

「いいえ、妃殿下! いいえ!
私は本当はエルネスト殿下をお慕い申し上げておりました。ですから、彼に愛されて、誘われて、本当はすごく嬉しかったのです」

「…………そう」


 分かっていても、ハッキリと言葉にされると辛くなってしまう。

 モニカが喉から手が出るほど欲しくて、けれど決して与えられないものを、コゼットは容易く得ることが出来る。

 エルネストの愛情を。
 笑顔を。
 求められる幸せを。

 おじゃま虫はモニカの方。
 そう思い知らされた気がした。


「コゼット――――エルネスト様のこと、よろしくね」


 モニカが出来なかった分、彼を笑顔にしてほしい。
 幸せにしてあげてほしい。
 責任感の強い彼から、モニカという重い鎖を消し去ってあげてほしい。

 モニカの言葉に、コゼットはニコリと微笑む。


「どうか私にお任せください、モニカ(ルビ)様」

 心がズキズキと痛む。
 モニカは曖昧に微笑むことしか出来なかった。

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