断る――――前にもそう言ったはずだ
「そう……」


 モニカの返答とともに、すすり泣きの声が響き渡る。
 それは怒りでも、悲しみでも、憎しみでもない、複雑な感情の入り乱れた涙だった。


「ごめんなさい、ヴィクトル……ごめんなさい」


 コゼットが呟く。今にも消え入りそうなか細い声音だが、ヴィクトルにはちゃんと聞こえているらしい。彼は至極優しい表情で彼女のことを見つめていた。


 ヴィクトルの愛情を信じて疑うことのなかったコゼットは、モニカからすれば、少し羨ましくもあり、それから気の毒にも思える。もしも彼に愛情がなかったら、ここまでの事態には陥っていなかっただろう――――そんなふうに思うからだ。


 恐らくはエルネストも似たような気持ちなのだろう。とても複雑な表情を浮かべている。
 二人は手を繋ぎ、寄り添いながら、コゼットたちのことを見つめていた。 
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