※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
10.二人で描く未来図

 旅行から帰った翌朝、紗良はいつもより早めに起床し、リビングへとやってきた。

「今日は早いんですね」
「実は吉住くんと朝も一緒に出社することになって、駅で待ち合わせしているんです。遅れたらいけないと思って……」
「秋野くんの行為が目に余るようなら一課の課長から注意してもらいましょうか?」
「あ、いえ。待ち伏せ以外は今のところ実害がないので……大丈夫です」

 紗良はそう言うと朝食のテーブルについた。今日の朝食は紗良も大好きなフレンチトーストと温泉卵をのせたシーザーサラダ。
 昨晩から仕込みをしていた力作を心して食したいところだが、静流の左手に輝く結婚指輪の存在に気もそぞろになる。

(やっぱり指輪してる……)

 指輪をつけている静流など見慣れているはずなのに、なぜかモヤモヤとしたものが胸に広がっていく。その正体を紗良は知っていた。……嫉妬だ。

 指輪がある限り、妻帯者と偽っている限り、紗良は静流を恋人だと表立っては公言できない。その逆も然りだ。
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