※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
1.ルームシェア始めます


『紗良とルームシェアしたいって言ってくれる人が見つかったんだけど、一度会ってみない?』

 友人の羽宮ほのか(はねみやほのか)から電話があったのは、連日猛暑日を記録した八月も終わりかけのことだった。

「うっそ!!本当に!?」

 待望の知らせに紗良は思わず歓声を上げた。

 大学を卒業してからほのかと五年もの間続けていたルームシェア生活はほのかの結婚という形であっさり解消された。

 ほのかが結婚し、築三十年の2LDKの一室から出て行って早三か月。二人で折半していた家賃十二万円を一人で支払い続けるのもそろそろ限界を感じていた。

 紗良も知り合いに声を掛けてみたが、恋人と同棲中だったり、実家暮らしでそもそもその気はないと断られたり、新しい同居人は思うように見つからなかった。

 築三十年とやや古めだが、水回りはリフォームされておりキッチンも広い。最寄りの駅まで徒歩五分という好立地。あっさり手放すには惜しい一室だと紗良も思っていた。

 新婚にも関わらずわざわざ時間を割いてルームシェアの相手を探してくれていたなんて本当にありがたい話だ。

『じゃあ、次の土曜日に部屋まで連れていくね。名前は高遠静流(たかとおしずる)さんっていうんだ』

 紗良は電話を切るとうーんと唸った。
 詳しいことは会ってから話すというのでそのまま電話を切ってしまったが、もっと人となりや職業などを聞いておけば良かった。
 これから一緒に暮らしていくわけだから、お金は惜しくても人間性は吟味したい。

(まあ、いっか。ほのかが紹介してくれるってことならそう変な人でもないだろうし。気が合うと良いな……)

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