※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

(どうしよう……)

 紗良はすっかり困っていた。
 静流本人に対面するまでは、当然のことながら同居人候補は女性だと思っていたからだ。ほのかの知り合いだし、ルームシェアという状況を悪用し紗良をどうこうしようとする人ではなさそうだが……こと男女関係に関しては絶対ということはない。

(普通に無理でしょ……)

 許されるのならば角の立たない断り文句を今すぐスマホで検索したい。

「ほのかさん、少しの間彼女と二人きりで話をさせてくれませんか?」

 断られる気配を察知したのか、静流がおもむろに口を開いた。ほのかがわかりましたと頷き、椅子から立ち上がっていく。

「その辺で時間を潰しているので話が終わったら呼んでください」

(うわーん!!行かないで……!!)
 
 紗良は内心、ほのかを引き留めたい気持ちでいっぱいだった。二人きりにされても気まずいだけだ。
 ほのかが出掛け二人きりになると、静流は改めて紗良に真摯に謝罪した。

「不躾な申し出で戸惑わせたかと思います。申し訳ありません」
「あ、いえ……」

 一応、男性の自分がルームシェアを申し出るのが非常識だという認識はあったらしい。

 部屋に上がる時、几帳面なことに玄関で靴を揃えていた。着ているシャツもスラックスもキチンとアイロンがかかっている。爪は短く切り揃えられ清潔そのもの。
 立ち居振る舞いも常識人のそれにしか見えない静流がなぜこのような非常識な行動に出たのか。理由は直ぐに明らかにされた。
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