※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
6.優しい貴方の隠し事

(これからどうなっちゃうんだろう……)

 メイク直しのために化粧室にやって来た紗良は鏡に映る自分に答えの出ない質問をつい投げかけてしまった。
 あれから三日が経ったが醜聞が下火になる気配は一向になく、紗良と静流はあちこちから好奇な視線を浴びせられていた。
 
 営業事務という縁の下の力持ちのような職種の紗良が社内で注目を浴びることはほとんどない。
 例外といえば一課に所属していた二年前の時ぐらいだ。

『一課の三船さん、二股されてたんだって?』
『可哀想〜』
『浮気相手ってあのコネ入社の桑名(くわな)工業の御令嬢でしょ?乗り換えられても仕方なかったんじゃない?』

 笑いの種にされ一課に居づらかった紗良を二課に異動させてくれたのは我孫子だった。しかし、我孫子はもういない。

 紗良は大きく息を吸った。肺の中に空気を溜め、一気に吐き出していく。そうやって負の感情を自分自身から解き放つ。後ろ暗いことがあるとチラとでも表に出せば、噂が真実だと言っているようなものだ。
 救いだったのは二課の皆が噂のことをまったく信じていないということだ。
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