約束された血の匂い

その3

約束された血の匂い/その3
麻衣



私たち二人が中へ入ると、3人の若い組員が素早く入れ替わりで外へ出た

「失礼します!」

大きな揃った声が私たちの背中に届いた

3人は、お辞儀して挨拶してるようだわ

扉は若い組員がすぐに閉めた

彼らは外の見張りに着く

ふふっ、あの連中、内心ホッとしてるんじゃないの?

だって、これから始まる凄惨なグロシーンを見なくていいんだもん


...



うす暗い倉庫の中では、マトの男が大声で叫んでいた

「頼みますよー!やめてください!ホント、勘弁してください…」

声の主が視界に入った

暗いのだが、はっきりとそいつのツラが、ズームアップしたわ

西城アツシ…


...



アツシはすぐに私に気づいた

「あっ、麻衣お嬢さん!ああ…、いや、親分の奥さん、助けて下さい!」

雪崩を打つような命乞いフレーズを、テンポよく連発する本日のマトは椅子にロープで拘束されていた

私との距離、約3、4Mってとこかな

この間隔なら血が飛んでくる

よし、少なくともココより後ろには下がらない

まずはそう決意した


...



「オヤジさん、あの…、」

マトの横に立っていた勝田さんは、倉橋さんにそこまで言葉を発したところで、私の方に顔を向けた

そして、その勝田さんの足元にはチェーンソーがそっと置かれている

「麻衣はここで見届ける。勝田、かかれや」

倉橋さんは勝田さんに、そう静かに告げた

「…いいんですね?本当に」

「くどいぞ、勝田!やれ!」

「わかりました…」


...



一呼吸置いた勝田さんはそう言ったあと、もう一度、私に視線を送った

「わー、やめてくれー!‼オレが何したってんです!納得いかないよー、わー!」

アツシの悲鳴は、凄い音量でうす暗く広い倉庫内を占領した

だが、それはただ響くだけで、コイツの期待する共鳴はない

そして、黒いサングラスの”彼”の目が私に向いた

どうやら撲殺人は、私にマイクを差し出してくれてるようだ

よし…

なら、それなりに”演説だ”

しかし‥

目の前の脂汗にまみれたアツシを凝視すると、どうも…

コイツを”こういう目”に遭わすことは、固く決意していたはずなのに…

なんかキツイ






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