⒊ 居場所


4日経っても渚は帰ってこなかった。

「先生、渚さんはいつお帰りになるのですか? 」

「お母さんの具合が思ったより悪いらしい。当分帰れないと連絡があった。」


・・・困った・・・


「そうですか・・・」

一週間が経った。渚さんはまだ帰ってこない。
規則正しい生活は私の身体を清くし、体調は良かった。
朝食を食べ終わると先生が言った。

「片付けが終わったら工房に来てくれ。」

「はい。」

何だかわからなかったが、言う通りにした。
工房に行くと先生は待っていた。

「あんたも作ってみないか?」

「やったことありません。」

「教えてやる。イャか?」

「いえ。お願いします。」

何となくそう答えてしまった。

「陶芸で使う土にはいろんな種類がある。ここ大島では三原山の溶岩が有名だ。自分が使いたい土を混ぜて作るんだ。」

先生は私に混ぜた土をくれた。

「これで粘土を作る。荒練りという作業だ。隣でやって見せるから真似てやってみろ。」

先生はゆっくりとやって見せてくれた。

「土いじりをしていると何もかも忘れられる。癒される。俺はだからやっているんだ。」

私は土いじりをするのは小学生以来だった。小学校の時に彫塑という授業があっていろんなものを作った。その時はすでに粘土を渡されていたので、この荒練りは初めてだった。

「もう少し腰に力を入れて・・・」

初めはおどおどしながらやっていたが、やり始めると土の感触が気持ちよく楽しくなった。
何度か折り畳み縦横を変えて練った。
そして最後に形を整えて俵型の粘土が出来た。

「皿でも器でも、何を入れたいか乗せたいかを考えて作ってみろ。まあ、この粘土がうまくできてないと焼くと割れるがな。」

先生はどこかに行ってしまった。
急に言われても何を作るか決められなかった。
考えた末に先日先生に気に入ってもらった料理を入れる器を作ることにした。
ひとつは煮物用、もうひとつは酢の物用。この粘土の量だと二つだと思った。
煮物用は少し深めの器で、酢の物用は朝顔形の小鉢が出来ないかとやってみた。
夢中で作った。何も考えずに出来上がる形だけを考えた。なかなか思うようには出来なかったが、何となく形が出来てきたとき先生が戻ってきた。

「何を入れるつもりだ? 」

「先日のおかずを・・・煮物と酢の物です。」

「そうか。」

先生は少し私の作ったものを手直ししてくれた。

「あんたの作るものはみんなおいしいが、この間の煮物と酢の物は特にうまかった。これが出来上がったらこれに入れてまた食わせてくれ。」

「この器、どのくらいで出来るのですか? 」

「約1ヶ月だ。」

「そんなに・・・」


・・・早く正志さんのところに行きたいのに・・・
・・・これでまた1ヶ月足止めされてしまう。渚も戻ってきていない・・・
・・・器も出来上がりを見てみたいけど・・・


どちらか早い方でここを出ようと心に決めた。
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