空色のオレと海色のキミ
二人の色



空は私を海鮮和食居酒屋へ連れて来てくれた。

「俺、和食に飢えてるから、ここな」
「海外出張だったもんね。空の食べたいものとオススメで注文してくれる?」
「海もメニューを見て、ひとつは選んで」

何かにつけて、空はこうして私に選択権を与える。食べられないものがあるわけでもないし、この店を知ってる空の注文の方が確かだと思うけれど、彼はいつもそう…いつもというのは、私たちが高校生のころ付き合っていたときのことがほとんどだけど。

‘海が好き、付き合って’と言われて始まった交際だが、同じ高校に通った時点ですでに一緒に過ごす時間が多かったので大した変化があったわけではない。

私も空のことが好きだった。他の誰とも比べようのない感覚で好きだった。例えば、お母さんとも違う感覚。空との間にだけ流れる空気が酸素濃度の濃い栄養に思えることも、空気さえ感じず二人だけが存在するように思えることもあったから。

「水蛸からあげ」
「ああ。いいチョイスだ、海。アルコールは?」
「少しだけ飲める」
「嗜む程度ですっ、てやつ?」
「そうかな?そう言うの?」
「そう言う奴に限って強かったりする」
「そうなんだ…空は?」
「普通に美味しいと思って飲んで、体調によってぴたっとどこかで不味くなる」
「すごい才能だね」
「ある意味な。日本酒飲める?」
「嗜みます?」
「ふっ…このColorsシリ-ズってさ、秋田県のお酒でウ"ィリジアン、ラピスラズリ、コスモス、エクリュってここにはあるんだよ」
「ラピスラズリ」
「だよな。定番で飲みやすいよ」

大学生になってしばらくしてから空と別れた時には、こんな風に二人で食事してお酒を飲む日なんて考えられなかったな。

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