冷徹魔王将軍は召喚聖女な田舎娘を溺愛中

6 求婚と遠征と失踪



「ふむ。次は西国、コールポート帝国か……」

 執務室にて、ザキエルは弟からの指示書を見ながらため息をつく。

 遠征が決まり、こんなにも気分が下がるのは初めてのことだった。

 ザキエルは今まで、自分の存在価値はこの溢れ出る魔力にのみあると思っていた。
 周りに人が少なくとも、大切な家族や側近達を守るため、必要とされれば戦場に出ることを躊躇わなかった。
 だというのに。

(彼女の傍を離れたくない……)

 彼女は、こんな魔力バカで図体ばかり大きいザキエルに対して、全く恐れを見せない。
 会いにいくといつだって歓待してくれるし、少し手を切っただけでも心配してくれる。
 多少ではあるが治癒の力もあるらしく、ザキエルの傷を治した後、「ザキエル様のお役に立てて嬉しかばい」と微笑む彼女は天使だった。

(やはり聖女ではなく、天使と呼ばせるべきではないだろうか)

 そして、天使はやはり天使なだけあって、誰に対しても優しかった。
 微笑みかけるのはザキエルに対してだけではない。
 外に出かけると、老若男女問わず彼女は優しく微笑むし、誰に声をかけられても嬉しそうにしている。

 ザキエルは、そんな彼女がいつか彼の元を飛び立ってどこかに行ってしまうのだろうと、毎日不安に思っていた。

『彼女はみなに優しい。私を特別気にかけている訳ではない』

 その悩みを周囲に吐露したところ、「殿下、ここはプロポーズです!」と使用人達全員が一致団結して勧めてきたのだ。

 ミシェルと結婚。

 その甘美な響きに、ザキエルは頭の中が真っ白になる。

 ザキエルはこの魔力がある限り、結婚などできる訳がないと、その未来を諦めていた。
 そんなザキエルに、側近三人も使用人たちも、悪魔のように囁いてくる。

「ザキエル殿下が彼女を特別気にかけていればいいのです!」
「ミシェル様は嫌がっていないでしょう!? 外堀から埋めることも大切ですよ、殿下!」
「好きだ好きだと押されて落ちる女性は多いです!」
「殿下のプロポーズには、王命の婚約と違って強制力はないので大丈夫ですよ。振られて気まずくなったらミシェル様は我が家で引き取りますのでご安心を」
「はあッ、抜け駆けするなよ!? 殿下、ミシェル様はうちで引き取りますから!」
「男どもにミシェル様を任せておけるもんですか! 彼女はわたくしが責任を持って面倒みます!」

「分かった。分かったから、みんな少し落ち着いてくれるか……」

 ヒートアップする使用人達に、ザキエルは肩を落とす。
 どうやらミシェルは、ザキエルの心だけでなく、王太子宮の使用人達みなの心を掴んでしまっているらしい。
 そんな彼女をさらに魅力的に思うと同時に、ザキエルは苦しい思いをしていた。

 なにしろ、ミシェルにとって今、ザキエルはどうしても必要な人間ではないのだ。


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