大江戸ガーディアンズ

意外にも、和佐の夫・本田 主税(ちから)は妻が「(おとり)」になることを許したと云う。

妹からそれを聞かされた松波 兵馬(ひょうま)は、思いがけぬことに歯噛みした。


兵馬と和佐にとっては父、美鶴にとっては舅になる松波 多聞(たもん)は、

其々(それぞれ)の亭主が良い、っ()ってんのを何でおれが止める義理があるってんだ。
まぁ……おれだったらよ、どこの大名であろうと、たとえ公方(くぼう)様や京の天子様であろうともよ、
(おのれ)の女房にゃ絶対(ぜってぇ)にさような下知(げじ)は受けさせねぇけどよ』

と告げて、若い頃の「浮世絵与力」さながら、にやりと不敵に笑った。

そして、和佐が吉原で「御役目」に()いている間、二人の子たちはそのまま松波家で面倒をみることと相成(あいな)った。

兵馬と和佐にとっては母、美鶴にとっては姑になる志鶴(しづる)には、吉原へ赴くことは伏せつつも「女手の()る特別な御役目」と伝えた。

すると志鶴は、

『子どもたちや御家(おいえ)のことはいっさい心配せずともよいゆえ、御公儀(幕府)や奉行所のために悔いのなきよう御奉公してきなされ』

と、いつものごとく穏やかに微笑みながら娘と嫁を励ました。

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