大江戸ガーディアンズ

〜其の弐〜


その日の朝、おるいは雇い主である水茶屋・嘉木(かぎ)屋を営む老夫婦から、こんこんと云い含められた。

「いいかい、おるい。
今夜、うちの店においでんなる御仁方のことは、絶対(ぜってぇ)余所(よそ)でくっちゃべっちゃなんねえんだぞ」

「そうだよ、おるい。
あんたが茶を運ぶとき、特に御用向きのお客の話にこっそり聞き耳立ててんのは、あたいら気づいてんだかんね」


おるいは二人に必死で謝った。

「あ、あたいが悪かったよ。
もう聞き耳なんざ立てやしないからさ。(ゆる)しとくれよ。
今日のお客だって、御用向きに関わるお人たちなんだろ。ちゃあんと心得てるよ」


「おめぇは器量良しで気立てがいい上に、おせい(・・・)ちゃんの友だちの娘だってんで、身元もしっかりしてっからよ」

おるいは、奉行所のお役人の御家(おいえ)で女中頭をやっている母親の昔馴染みの伝手(つて)で、この水茶屋に茶汲み娘として奉公するようになった。

「あんたのお()っつぁんとおっ()さんにゃ、お嫁入りするまでうちで預かるっ()ってんだかんね」

なのに、この店をおん出されてしまったら、故郷(くに)の両親にも近所にも顔向けができなくなってしまう。


それに「御用向き」の話に聞き耳を立ててたのは……

「与太の役に立ちたかっただけなのにさ」

——そのためなら、(おとり)にだって何だってなってやったのに……


世田谷村とは全然違った朱引内(こっち)の言葉だって、必死になってたったの三月ほどで覚え込んだくらいだ。

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