隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
「うぅ……。お母さま、苦しいです」
 その訴えで、少しは緩めてもらえたものの、やはりこのコルセットというものには慣れない。むしろアルベティーナは、慣れたくないと思っている。
 アンヌッカに気合が入っているのは、社交界デビューのドレスは白と決まっているためだ。一斉に白いドレス姿の年頃の女性が集まる。そうなると差をつけるために必要なとなるのはそのドレスのデザインや装飾品となる。アンヌッカはこの日のために、一年も前からデザイナーと話をつめて、娘であるアルベティーナのためにこのドレスを仕立てていた。
「お似合いですよ、お嬢様」
 アルベティーナにとっては、そんな使用人の言葉さえも、右から左へと流れていくように感じてしまう。つまりアルベティーナにとっては、この社交界デビューは大した関心の持てない催しものであると認識されている。やらなければいけない義務感からやるべきことだと思っているもの。
「ああ、本当に素敵よ、ティーナ」
 アンヌッカは今にも泣き出しそうであった。若くして上の子を産んだ彼女は、年も四十の半ば。だが、見た目はそれよりも十も若く見える。
「どこかのお姫様かと思ったよ」
 私兵たちからは鬼団長とも呼ばれているコンラードであるが、やはり娘の前ではその顔も緩む。
 両親が褒めてくれたように、真っ白なドレスを身に纏い、母親に似た赤茶色の髪の毛を結い上げたアルベティーナは、普段の彼女から想像できないような淑女に仕上がった。
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