セカンドバージン争奪戦~当事者は私ですけど?

「……坂根さんは弊社企画広報部で何をしようとお考えでしょうか?」
「申し訳ありませんが、ここで具体的にお伝えするつもりはありません。そのままアイデアだけを採用される可能性がありますから」

ああ…堕ちた…全力で自分の能力を大袈裟なほどアピールする場で、企業競争を思わせる返事を迷いなく発した姿は美しく尊い。こういう人格者にはめったに出会わない。だが、俺は今日ここで出会った。

すぐに採用して勤務してもらうと、初日である帰りに会社前で企画広報の桐谷くんと彼女が話し込んでいる。二人の背後から声を掛けようかと思った時‘はぁーっ?’という彼女の声が聞こえ、知り合いなのか?と思う。初対面でそんな声を出さないだろうから…少し様子を見ることにした。

「ゆーあさ、俺のこと、めちゃくちゃ下手なヤツだと思ってるだろ?あのままでは男として終われないんだよな。いきなり抱くとは言わない。もうすっかり大人だからな、俺もゆーあも。大人のデートしてから…」

どういう関係だ?

「お言葉ですが…あのまま終わっていただいても5年間元気に生きてきたので全く問題なし。今朝、顔を見ても名前も分からないくらいだったし、思い出したって元々知っているのは‘ヨウ’っていう呼び方だけだったし」
「ますます可愛くなって再会したんだから、まずは仲良くしようよ」
「お仕事でよろしくお願いします」
「そんな他人行儀な…」
「他人でしょ?」
「彼氏いるの?」
「…」
「いない?俺はいないから」
「…だから?私、彼氏も大人のデートも興味ない」
「うん?どうして?」

だいたい話がわかったところで、返答に困った彼女に助け船を出すことにした。

「最初にそんな意識を植え付けられたんじゃないのか?可哀想に」
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