セカンドバージン争奪戦~当事者は私ですけど?

結愛を何時間待とうが1ミリの怒りも感じなかったが、距離を置いたあとに攻めるには怒っているふりをする。

試行後に思うところがあって百貨店に寄ったなんて知っていたら、本来なら夕食を作って待ってる、と言うところだ。そして結愛は、俺の腕の中で前進したところを披露する。

「…江藤さんは江藤さんだ…って…なんでかホッとしてます」
「結愛も寂しかったんだ」
「…ほんの一瞬…音速くらいでそう思ったのかもしれないけど…一瞬すぎて不確かです…」
「上等。ちゃんと寂しさは埋めてやる」

上等だ、結愛。抱きしめられてホッとするのは、本来の俺を理解しつつ受け入れていることの表れで、寂しかったことを音速という照れ隠しをしつつも認めているのは俺の我慢がもたらした結果だ。

あと一歩、いや、半歩…結愛が俺を好きだと自覚するまであと半歩だな。

俺が身を屈め彼女にゆっくりと口づけ…唇をしっとりと重ねるだけのキスをすると

「ちょ…っ…何てこと…ここ、うちの前…私の身になってください、恥ずかしい」
「レディの部屋に安易に入れない」
「…」
「結愛が寂しくならないように毎日愛を囁く権利を俺にくれ」

コツンと額と額を合わせ、鼻先が触れるか触れないかの距離で見つめ合う。ああ…ドキドキが聞こえてきそうな表情の結愛の鼻をこのまま食んで、俺の背後のドアに彼女を縫い付けて唇を重ねるだけのキスではなく、彼女を味わうキスがしたい。結愛…自分の気持ちを認めてくれ。

そう願い、もう一度俺は引くことにした。

「今日は顔を見たから帰る。週末、駅前のカフェでモーニングしよう。あとで場所を送る」

そう言い彼女の頬を撫でると、彼女の部屋の前から去った。
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