俺様男子はお気に入りを離さない
放課後の美術室で絵を描くのが好きだった。
窓から差し込む日差し。
グラウンドから聞こえる声。

余計な雑音がない、この空間でキャンバスに色をのせる。

だけど今は、筆が進まない。
進まないだけじゃない。
思った色が作れない。

「はぁ……」

ため息が漏れるのと、美術室の扉が開くのは同時だった。

いつものように御堂くんが入ってきたけれど、なぜか後ろ手に鍵を閉める。

ガチャリと無機質な音がしたかと思うと、足早に私の方に駆け寄り腕を引かれた。

「えっ、ちょっと……」

「一緒に隠れろ」

「えっ?」

そのまま御堂くんは美術室の奥へ向かう。
ごちゃごちゃと備品が置いてある辺りまでくると、隠れるように身を潜めた。もちろん私も引きずり込まれている。

「どうしたの?」

「先輩たちに追いかけられてる。今日はやたらとしつこい」

「……そ、そうなんだ」

御堂くんは疲れたように天を仰いだ。

その原因を作ったのは私かもしれない。
私が御堂くんと花火大会に行ったから、それがバレてしまったから以前にも増してしつこく追いかけられているのだろう。

「御堂く……」

「しっ!」

御堂くんの人差し指が私の唇に突きつけられる。
直後、廊下をパタパタ歩く複数人の足音がした。

狭い空間に二人っきりで身を寄せ合う。
何か悪いことでもしているみたいだ。
< 48 / 75 >

この作品をシェア

pagetop