【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 2

香りについて

「一日一緒にいただけで、スケジュールも分刻みでしたし、あちこちの会議に参加して舵取りをするのにも、事前に情報を頭に入れて……。外に出て会食、あとは出張とかもあるんでしょう? それをずっと続けてきて……体調は大丈夫かな? って急に不安になりました」

「ありがとう」

 佑は香澄の頭をまた撫で、抱き寄せて頬にキスをしてきた。

「わ……っ」

 運転席には小金井、助手席には呉代がいるので、香澄は慌てて佑から離れようとする。
 が、佑が手を伸ばして中央にあるボタンを押すと、前の席と後部座席との間に、仕切りがせり上がってきた。

「え……っ?」

 こんな仕様になるのを知らず、香澄は素の声を出す。

「自分で運転する以外の車は、大体こういう改造をしてるよ」

 佑はにっこりと、それはいい笑顔で笑った。

(お金持ち半端ない……!)

「あぁ……。ちょっと香澄充させて」

 そう言って彼は香澄を抱き寄せてきた。

「んっ、んー……」

 ぎゅうっと抱き締められ、首筋の匂いをスンスンと嗅がれる。

「うう……う……。匂いは、やめてください……」

 香澄は香水も何もつけておらず、匂いがするとすれば汗の匂いしかないと思っている。
 汗を掻きやすい首筋の匂いを嗅がれるのは、とても恥ずかしい。

「どうして? いい匂いがするよ?」

「いい匂いなんてしませんよ。私、何もつけてないですし」

「それは香澄の匂いだからだよ。自分の匂いには気付かないものだし」

「んー……。臭くないならいいんですが……」

 返事をしつつも、香澄は佑の匂いを嗅いでうっとりする。

「佑さんはいい匂いがしますね。大人の男性っていう感じ。……深くて官能的で、スッキリもしているけど、奥にバニラみたいな甘みがあります」

 目を閉じて香りの印象を口にすると、佑が微笑む。

「ミラル・ハリーというブランドのテンダーハートっていう香りだよ」

「佑さんって、香り物好きですよね。家もいい匂いしますし」

「ん。香りって記憶に直結していたり、いつも使う香りを『いい匂い』と思うか不快に感じるかで、大体の体調も分かる。そういう意味で、あれこれ調整してはメンタルを整えているかな。気持ちの切り替えにもなるし」

「私、普段香水をつけないので、そういう考え方があること自体分かりませんでした」

 素直に言うと、佑がそっと体を離し解放してくれる。

「家に置いてある香水、試してみた?」

「あ、はい。どれもいい香りですね」

 荷物が落ち着いてから出社するまでの勉強の日々の中で、佑に言われたように洗面所にズラリと並んでいる香水を試していった。

 香水は名前だけではよく分からない物が多い。

 例えば〝ローズ〟と書かれてあれば「ああ、バラの香りなんだな」と分かるが、〝サンダルウッド〟や〝トンカ〟とあっても、香料に詳しい人なら分かるかもしれないが、香澄にはさっぱりだ。

 なので最初のうちは、やはり大量に置いてあったムエット――試香のための試験紙にあれこれ吹きかけてみて、ざっくりとどんな香りなのか試していった。

 申し訳ないが中には受け付けない物もあり、それは自分の体に纏っていない。

「ボトルを見て分かる通り、男性向けっぽい物は俺がよく使ってるから、減りが早い。コレクションとして購入して並べてあっても、どう考えても女性向けのは使っていない。気に入った香りがあったら、量がどうであっても好きに使っていいよ。減ったら補充するし、気分であれこれ変えて少しずつ決めていってもいいし」

「はい。それで色々試してみて、自分の中で好きな方向性は何となく掴みました」

「へぇ。何?」

 佑に尋ねられ、香澄は少し照れながら教える。
 香り好きはもともと佑の領分なのに、自分がそれに入っていって同じ話題を持てるのが、どこか嬉しくて恥ずかしかった。

「フルーツ系が好きなのかもしれません。ジョン・アルクールっていうブランドの、ネクタリンや、スイートペアー、ブラックベリー辺りを『あ、いいな』って感じました。フローラル系? のお花の甘い感じはあまり好きではないんですが、果物系の甘さなら好きだって分かりました」

「なるほど、フルーツ系か」

 佑は機嫌良さそうに頷く。

「あと、美人堂から出ているロンドン・コレクションシリーズのとか……。あれ、香りのカードを見てみたら、洋梨やカシスとか、私の好きな系統があって納得しました。あと、バイ・ローランっていう、本みたいな箱に入った高級そうな奴のファントム・フラワー。あれも桃が入っていて、とってもいい匂いがしました」

「バイ・ローランね。いい香りだよな。〝香水界のジャーマンジャガー〟って呼ばれているブランドだよ」

「ひ……っ」

 ジャーマンジャガーと言えば、高級車の代名詞だ。
 佑もガレージに所持しているし、香澄の一般人的な知識では無駄にボディの長い車として印象づいている。

「ヴィクスって知ってるだろう?」

「は、はい! 勿論」

 ヴィクスはフランスの超有名なラグジュアリーブランドで、革製の高級バッグで日本の女性にも人気がある。
 レオ・ヴィクスのブランド名の、モノグラムのバッグを持っていると、ブランド好きの女性から憧れられる。

「あのヴィクスの元になるグループ企業がエマリー。飲食店で酒を出していたなら、エマリーの名前は知ってるよな?」

「はい。コニャックで有名なエマリー社……って、そこ、繋がってたんですか?」

「そう。ファッション界でパリコレとかあるけど、あそこに参戦してるラグジュアリーブランドは、大体マチュー・エマリー・レオ・ヴィクスグループの傘下なんだ」

「はぁ……」

 自分が感覚で「この香りが好き」と思った香水は、とんでもなく高級な物だった。

(そりゃいい匂いな訳だ……)

「で、バイ・ローランの創始者であるローラン・エマリーは俺の友達だ。歳は彼の方が少し上だけど、色々良くしてもらっている」

「はぁっ!?」

 にっこり笑われ、香澄はシートに座っていたというのに、驚きのあまりお尻が一センチほど浮き上がるほど体を弾ませた。

「Chief Everyからも化粧品ラインを出したいと思っているけど、いずれ考えるフレグランス商品では、彼に監督してもらう事も考えている」

「はぁぁ……! それ、もうすんごい話題になって売れると思います。……ブランド力が違う……」

「ありがとう。彼からも『仕事の話ならいつでも』と言われているから、機会が訪れたら相談しようと思っている。あと、いつかローランと連絡する機会があったら、香澄が香りを気に入っていたって伝えるよ」

「どど、どうも……」

(えらい展開になってしまった)

〝世界の御劔〟と言われている佑なので、もちろん海外に有名人の知り合いがいるだろう事は想定していた。
 だが香澄がポンと好きだと思ったものから、超有名なブランドの名前が出て、その御曹司と知り合いと言われれば、一気に距離が近くなったように思えて驚いてしまう。

「好きな香水の方向性が決まったなら、つければいいじゃないか」

「でも、毎日仕事ですし……。佑さんぐらい、自然につけられたらいいんですが」

 佑はこうやって抱き締められるぐらいの距離にならないと、香りが分からない。
 その付け方が上品だと思う。

 香澄は香水に慣れ親しんでいないので、どうつけたら適正なのか分からないでいる。
 世の中には〝香害〟〝スメハラ〟という言葉があるのも分かっていて、自分はいい匂いと思っていても、周りに迷惑を掛けている可能性もある。

「俺は風呂上がりに、全裸の状態で香水やボディクリームをつけて、そのままかな?」

「そうなんですか? こう、出掛ける前にシュッシュッてやってるのかと思ってました」

 香澄は手首に香水をつけるジェスチャーをする。

「ああ、後付けはピンポイントに指で少しつけるだけ」

「はぁ……。何か、空中にプッシュしてその下をくぐるとか」

「間違いじゃないけど、スーツにつくとシミになりかねないから、俺は基本素肌かな」

「はぁ……」

 付け方そのものも未知で、香澄はぼんやりと頷く。
 その様子を見て、佑がニヤッと笑った。

「今夜一緒に風呂に入って、付け方をレクチャーしてあげるよ。足首とか膝の裏とか、腰とか、顔を近付けた時に香るのはいいね」

 下半身に彼の顔がいくシチュエーションを想像し、香澄はボッと赤面する。

「え……えっち!」

「ははっ、香澄にならどんどんセクハラするよ」

 とても爽やかに言い放つので、彼がセクハラと言っても嫌な感じがしないので逆に困る。

(佑さんが相手だと、何を言われても嫌だって思わないのが容易く想像される……)

 そう思うのも、普段の彼が本当の意味でのハラスメントとは、無縁の紳士だからだと思う。

(まだ一緒に暮らし始めたばかりだし、佑さんのどこに地雷があるか分からないから、気を付けていかないとだけど)

 けれど佑は香澄が何をしても「構わないよ」と受け入れそうで、彼が怒るところを思いつかない。

 先ほど会食で真澄に対してやや真剣なトーンを出していたものの、あれは高校からの親友で、本音を言い合えるというのもあるのだろう。

 そんな会話をしているうちに、車は二十分ほどで御劔邸に着いた。
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