君の一番は僕がいい

続く

 クマの正体がわかった今、俺と花沢は救いとなってくれるであろう佐倉を探すことにした。
 花沢から佐倉へ。
 どちらにせよ、良い思いはしないだろうが、わらも縋る思いで歩き続ける。
 だけど、俺は気づいてる。もちろん、花沢も。この行為に意味がないこと。
「あの時、吉沢が私を倉庫に入れてくれなかったら殺されていたんだよね」
 溝内があの場で突然死として処理されたのは当然ともいえるが、花沢は俺の近所を逃げていた。
 行方不明になった彼女がどうして、この辺にいるのかわからなかったが、尋ねようと外に出たとき。
 彼女は、クマに追われていると言った。
 その焦り具合と、吠える声。
 リスクは大きいが一旦、倉庫に隠すことにした。少し歩いたところにある倉庫。
 ここにいることはバレないように、すぐに逃げるのはリスクがあるように。
 クマであろう人が通り過ぎたころ、倉庫に隠した。
 危険すぎる行為だったが、一週間以上塞ぎがちだった彼女がこうやって話すようになったのは、一応落ち着いたからなのだろう。
「花沢もクマに襲われたんならわかるだろうけど、あれは危険だね。あんな風に首を絞められたのは小さいころ以来だよ」
 花沢の話も聞かず俺は話した。
「小さいころ?」
「親父にやられたことがあったんだ。俺がいい人じゃないから。だけど、あれの何倍も苦しかったね。親の怒りとかよりもクマのことを考えたときの方が怖かった」
「……」
「あの痛みならわかるよ。逃げられない」
「……」
「逃げるために必要だったのは、花沢と溝内」
 あの日、クマに殺されかけた夜。
 花沢に向かったクマを―――この時は、人の姿だった―――殴り、振り向かせ、溝内を囮にして逃げることに成功した。
 被害者になるときと目撃者になるときとでは見え方が全く変わってしまうのだなと思った。
「……私は、学校に行くべきかな」
 話を変える花沢。
「行こう。日野も一人じゃ辛いだろうから」
「……あ、うん、そうだね」
 やはりまだ傷心しているのか。
 人の死を見てしまっているのだから当然と言えば当然。

 彼女は言われた通り、学校に来た。
 溝内が死んだ知らせを聞いた後の彼女の登場。
 クラスメイトの誰もがどんな表情をしたらいいのかわからない。
 臨時の先生がきて、何とも言えない空気間の中授業をして放課後。
 警察は、何があったのか放課後彼女から事情聴取を受けることになっていた。

 部活動があるので向かうのだが。
 その行く手を阻んだのは亜久里と愛美。
 茅野のことで相談があると、呼ばれた俺は廊下の端に来た。
「茅野が宮野を学校から追放したのは私たちだって言うの」
「それで、花沢も戻って来たから標的にされかねないんじゃないかって」
「愛美は亜久里も一緒にされる可能性があるから俺に相談を?」
 つまり、花沢がいじめの的にするのではないかということだ。
「そんな気はしないけど」
 そもそも花沢が人をいじめているなんて話、聞いたことがない。
「日野だって花沢たちと関わりたくないはずだよ」
「急に、突飛由もない」
「本当なんだってば!だって、日野と花沢って雰囲気的に絶対合わないじゃん」
 だいぶ、失礼なことを言うじゃないか、愛美よ。
「あの二人ってもともと仲悪かったって聞くよ」
「まさか」
「なんで、信じてくれないんだよ!宮野だっていまだに学校に来てない!花沢が何かしたんだよ!」
「……」
 こんな真剣に話すとなるとそれはもう嘘をついているように見えない。
 単純に考えると宮野を学校に来させれば良いというだけ。
 そうしたら、花沢も何も言わなくなるだろう。花沢がそういうやつだとは思えないが。だって、態度良いし。
 花沢に対する考え方を変えるとなると、ほかの佐倉や伊藤も俺の知っている二人ではなくなる。
 そもそも女子同士仲がいいという関係性も考え直さなければいけない。
 男子と女子では友情の価値に雲泥の差がある。
 女子は友達というより利用価値という点で見ているとしたら話はだいぶ変わってくる。
 楓が俺にしかああいうかわいらしい態度を取らないのも三人がそれをけん制しているから。
 俺にしか見せないのではなくて素を出せる場所が学校にはないから。
 クラスメイトにその態度を露出させないのは俺が好きだからではなく露出できないから。
 男子には好かれるだろうが、女子は圧倒的に嫌うタイプ。
 実際、楓の態度が冷たくなったからクラスでもその慣れでも日野と呼んでしまうのだ。
「考え直した方がよかったのか……」
「え?」
「いや、宮野の家に行こう。美馬がいない今、話しやすい相手って言うのが欲しいだろう」
 美馬が圧をかけていたなんて二人は知らないだろうから。
「今から?」
「部活あるし、部活が終わってから」
 部活動が終了し、暗い中三人で宮野の家に向かう。
 その道中、愛美が言った。
 宮野の家は親が留守にしていることが多いから、一人で家にいるかも、と。
 それなら、手っ取り早く彼と会って話すだけ話しておきたいのだが……。
 宮野の家は明かりがあって、インターホンを鳴らすと両親が出てきた。
 宮野本人ではなく両親が、だ。
「あら、その制服は仁と一緒」
「そうです。最近、来ないので大丈夫かなと心配で」
「……それなんだけど」
 両親は言いにくそうに見つめ合う。
 だが、父親が口を開いた。
「実は、ここ数週間ほど帰ってきていないんだ」
「……え?」
 帰ってきていない?そもそも、宮野は家にいるんじゃないのか?
「いやいや、学校にも来てないですよ」
 亜久里はそうかぶりを振った。
「それは知っているよ。警察に届け出を出したが訝し気に見られたよ。同じ学校、同じクラスでこんなにも人が死んだり消えたりするんだから」
 教師含めれば、四人は死んでるからな。
 一人戻って来たと思ったら一人また失踪したってことだからそりゃ、警察もそんな反応するよ。
「仁は何か言ってませんでした?」
「……いや、何も。私たちは子供の教育費とか一人の給料じゃ払えないから共働きなんです」
 最近、多い共働き。
 働いても税金を取られると親も文句を言っていたような……。
「うちもです。大変そうだなって思うことが多いです」
 愛美は答えた。
「だけどね、仁の将来を考えたら仕事は嫌じゃないの。頑張れる。だけど……」
 宮野は行方不明。
「俺たち、探しますよ。落ち着いてくださいって俺が言うのも変ですが……」
「でも、クマが出るって話でしょ?」
「危険だし、警察に頼るべきだよ。子供は尚更」
「そしたら、僕らも心当たりないか生徒に回ります」
 亜久里はそういって礼をした。
 帰るつもりなのだ。
 もう少し話したかったが仕方ない。
 俺らも礼をして帰路に就いた。
「二人はクマにあったことあるか?」
「……ない」
「嘘つくなよ」
 愛美の返しに亜久里は言った。
「美馬と一緒に宮野の家に来た日の帰り、クマにあっただろ」
「それ、ホント?」
「……いいじゃん、言わなくて」
 愛美はあまり言いたがらない。
「あのクマが私たちを追いかけてくることはなかった。クマだったけど、そうじゃない。みんなが言うことと一緒。きっと、クマだって言うのは幻覚なの。だから、私はクマの仮面って言ったの!だって、田舎って言っても、クマが出るほどじゃないじゃない」
 それにここは住宅街、クマなんか来ないよ、と怒り混じりに言う。
 どちらにせよ、俺も襲われた身だ。
 リスクは早めに対処しないといつか大きくなってしまう。
 ただ、もしもこの手でまたクマを殺すとなれば俺はそのときできるだろうか。
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