夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
第六章『頼まれてくれないか?』
◆◆◆◆

 シャーリーが事務官と復帰してから十日が経った。
 ランスロットの執務机の上にあった、山のような書類も、今ではすっかりと綺麗さっぱりと片づいている。
 だが、それでもランスロットには悩みがあった。むしろ、悩みしかない。そもそもシャーリーが記憶を失っているそのことが大きな悩みなのだ。
 ランスロットは彼女よりも先に屋敷を出る。それは騎士団の朝議があるためだ。朝議を終え執務室に戻り、しばらく経った頃、シャーリーはやって来る
 だが、そのしばらくの間に、ジョシュアがふらりと顔を出す。
「で、シャーリーとはどうなんだ?」
 勝手にお茶を淹れて、勝手にお茶を飲んでいるジョシュアは慣れたものだ。
「どうとは、なんだ」
「うまくいってるのか? シャーリーと」
 ランスロットは勝手にくつろいでいる目の前のジョシュアを、ジロリと睨みつけた。
「あの机を見て、うまくいっていないとでも思っているのか?」
「仕事の方じゃない。そっちはウェスト事務官からも報告はあがってきているからわかっている。彼女との結婚生活だよ、私が聞いているのは」
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