夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
第八章『抱きしめてもらってもいいですか?』
◆◆◆◆

 目を覚ますと、隣でシャーリーが眠っていた。それでも彼女とは二人分の距離が開いているし、間にはくるくると丸めた毛布が置いてある。
 だがランスロットにとって、シャーリーと同じ寝台で横になることができたのは、かなりの進歩であると思っている。
 彼女を起こさないように、ランスロットはそろりと寝台からおりた。
 昨日、ジョシュアから呼び出されたのは、あの結婚式での狙いがわかったかもしれないと言われたためだ。
 呼び出された先には、ジョシュアの他にも魔導士団の団長や、財務大臣の姿もあった。
『恐らく、あのとき狙われたのはシャーリーの方だろう』
『俺ではなかったのか?』
 そこでジョシュアは財務大臣に目配せをした。
 財務大臣が言うには、魔導士団の調薬部門からあがってきた会計報告書に不審な点があると、シャーリーが指摘したことがあったようだ。そのときは、書き間違いだと思い、修正するようにと伝えた。
 だが、たびたびそういったことがあったため、シャーリーは裏の帳簿が存在するのではないかと疑っていたらしい。
『シャーリーがそれに気づいたのは、いつのことだ?』
『結婚する三か月前だったような気がするな。その頃から、魔導士団の調薬部門は間違いが多いとぼやいていたようだ。詳しくは、ウェスト事務官に聞くといいだろう。彼女は、滅多なことでは、他の者と話をしないからな』
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