夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
第九章『愛していると言ってくれ』
◆◆◆◆

「シャーリー」
 急に黙り込んだシャーリーに視線を向けると、彼女は寝息を立てていた。
 少し記憶を取り戻したことで、一気に疲れが出たのだろう。
 ランスロットは彼女に言われた通り、机の引き出しを開けた。一番下の一番奥には、青い帳面があった。
 それからシャーリーは不思議なことを口にした。一番上の引き出しの天板に帳面が貼り付けてある、と。
 その引き出しを開け天板に触れると、何かがあった。これが、彼女が口にした帳面だろう。
 ビリビリと天板から引きはがし、それを手にする。
 パラパラとめくると、シャーリーの丸みの帯びた字が、ページの途中にビッチリと書かれていた。
 最初でも最後でもなく、わざわざ中途半端なページから書いた理由。
 誰にも見つからないように、わざわざ天板に貼り付ける必要があった事情。
 中身を確認して、ランスロットは理解する。
 これは今すぐにジョシュアに確認してもらいたい代物だ。だが、シャーリーを一人にさせるわけにはいかない。
 ランスロットは、執務席の上にあるベルを鳴らし、事務官を呼ぶ。
 すぐに現れたのはアンナだった。
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