夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 シャーリーはこくこくと、小刻みに頷いた。
「あの……。ここは、どこですか?」
 目が覚めてからずっと思っていた疑問を、目の前の女性にぶつけてみた。
「それに。『奥様』はどちらにいらっしゃるのですか? 私、御礼を言いたいのですが」
 シャーリーが、このような立派な寝台で休めていたのも、心の広い『奥様』のおかげなのだろうと思っていた。
 お仕着せの女性は振り返り、セバスと目配せをしてから、シャーリーに向かって尋ねる。
「失礼ですが、お名前をうかがってもよろしいですか?」
「あ、はい。こちらこそ、お世話になったのに、名乗らず申し訳ありませんでした。私、シャーリー・コルビーと申します。王城で事務官を務めております。よく覚えていないのですが、助けていただいたようで。ありがとうございます」
 座ったまま頭を下げるシャーリーを、目の前の二人はじっと見つめている。
(もしかして、失礼なことを言ったかしら……)
 助けてもらったのに、まともな御礼も口にできないと思われたのだろうか。トクトクと胸が鳴っている。
「シャーリー様、落ち着いて聞いていただけますか?」
 目の前の女性は目元を引き締め、きりりとした口調でそう言った。
「あ、はい」
 シャーリーとしては、充分に落ち着いているつもりだった。見知らぬ場所で眠っていたにも関わらず、騒ぐことなどしていないのだから、落ち着いていると表現してもいいと思うのだ。
「ここは、ハーデン家の屋敷です」
 ハーデンの名は、シャーリーも知っている。王国騎士団の団長の姓がハーデンなのだ。
 となれば、ここは団長が所有する屋敷なのだろう。
「王国騎士団の団長のお屋敷ですか?」
 シャーリーが尋ねると、そうです、と彼女は頷く。
< 17 / 216 >

この作品をシェア

pagetop