夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 シャーリーがイルメラと馬車で王城に行くのは、数日ぶりのことである。ランスロットによる送迎が始まる前までは、彼女に送ってもらい、迎えにきてもらっていたのだ。それすら懐かしい感じがする。
 イルメラと並んで歩いてランスロットの執務室へと向かった。時間になれば、レイモンがここを訪れ、話を聞きにくるはずだ。
 昨日、シャーリーはいつの間にか馬車に乗せられていた。ランスロットが会議で不在のときに、侵入者の気配を感じて隣室に逃げ込み、ランスロットが戻ってきたところまでは覚えているが、その後の記憶がばっさり無い。
 ぐるりと部屋を見回すと、飲み終わったカップが置きっぱなしだったり、使用した寝台もそのままであったりした。
 レイモンが来るまで、もう少し時間がある。彼女は、それらを片づけることにした。
「奥様、手伝います」
「ありがとう。そしたら、ここはお願いするわ。私、書類を確認しておきたいから」
 ランスロットは、しばらく屋敷で安静にする必要がある。となれば、急ぎの案件だけは確認しておきたかった。
 シャーリーが復帰してからというもの、ランスロットが事務仕事を溜め込むのは減っていた。
 彼の机の上に置かれている書類を確認し、事務室へ提出できそうなものは提出する。
「イルメラ。私、事務室へ行ってくるから」
「奥様。お一人では」
< 192 / 216 >

この作品をシェア

pagetop