夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「話かけても大丈夫か?」
「は、はい……」
「緊張、しているのか?」
「はい……。それは、ハーデン団長だから、ではなく。ハーデン団長が男性だから、です」
「とにかく、座れ」
 ランスロットが顎でしゃくった先にはソファがある。
 そして彼は、扉の前から動こうとはしない。
 このくらいの距離を保たれているのであれば、シャーリーはなんとか会話をすることができるはずである。
「はい、失礼します」
 シャーリーがソファに座ったのを見届けたランスロットも、場所を移動しようとゆっくりと歩き始める。
 シャーリーとの距離を詰めないようにと、彼は壁際に沿って横歩きをしていた。
(え、と……。ハーデン団長、よね?)
 シャーリーが知っているランスロットと、目の前のランスロットのイメージは異なる。
 シャーリーが知っている彼は、いつも堂々としていて、部下にてきぱきと指示を出している人間。そして他の人よりも、少しだけ計算の間違いが多い男である。
「このくらいの距離ならば、大丈夫か?」
「あ、はい……」
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