夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 そのメモを手にしたシャーリーの動きが、不自然に固まった。はくはくと、口を開け閉めしている。
『コルビー事務官?』
 彼女が息をするのを忘れているように見えてしまったため、ランスロットは声をかけた。すると、シャーリーはそのままじっとランスロットをその場から見つめてきた。
『だ、団長。これは、どういうことでしょうか』
 いつも、必要最小限の会話しかしなかった。彼女からこのような言葉をかけられたのは初めてのことだった。ランスロットの作戦がうまくいったようだ。
『そこに書いてある通りだ。聞いたのだが、どうやら新しい菓子屋ができたみたいでな。俺もそこの菓子を食べてみたいと思ったんだ。申し訳ないが、そこで菓子を買ってきてもらえないか? 何も今日中とは言っていない。明日でも明後日でもいい。お金は俺が払うし、菓子は君が好きなものを買ってきてくれればいいから』
 文章に書くと長くなるが、言葉にすると気持ちがすらすらと出てきた。
 だが、本音は隠す。
(君と一緒にお菓子が食べたい――)
 その本音だ。
『仕事であれば……』
 彼女は言い淀む。
『ああ、仕事だ』
 シャーリーが大きく息を吸った。
『承知しました……』
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