幼馴染みの鍵が開いた瞬間から溺愛が止まらない
 店を継いですぐに愛子とは別れた。
 緑は、最初の彼氏とは一年くらいで別れ、その後はいなかったと思う。
 俺とはやはり兄と妹みたいな関係が続いていた。

 彼女も会社二年目、俺も四年目に入り、お互い余裕が少し出来てきた。
 店に来れば、好きなメニューを出してやり、忙しい時は手伝ってくれた。
 
 心地よい関係。だったはずが先日、青が電話をよこした。
 青の法律事務所に菜摘の友人、木下素子さんの兄が妹のパワハラの件で相談に来たと言われた。

 それが何だ?と聞いたら、その兄が緑の直属の上司で唯が言うには緑に気があるという。
 多分、何かあったかもしれないなどという。青と唯は、俺たちのことを前からくっつけたがっていた。
 その話を聞いてから、モヤモヤし出した。
 
 しかも、木下素子さんが菜摘の紹介でバイトしたいと言ってきた。
 前から俺に気があるのは知っていたが、彼女の心の傷を考えると頷くしかなかった。
 彼女とはそういう関係には絶対ならないのはわかっていたので、リハビリとして働くように言った。

 そして、昨日。
 緑の告白は嬉しかった。抱きしめたかった。
 しかし、緑の後ろでじっとこちらを見つめる目があった。
 緑を睨むように見る木下さんの目が気になった。
 緑を守るために余計なひと言を言ってしまった。
 妹ではないと言いたかった。俺も好きだと言いたかった。
 後悔しても遅く、緑は逃げ出した。

 今日、返事をすると言っていた。
 そいつに緑を渡したくない。
 夕べ寝ずに考えて決めた答えだ。忘れていったカバンにメモを入れた。
 見てくれたら……。返事があれば……。俺は緑を失わずに済むだろう。
 

 
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